森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

ギエムのボレロ

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創立50周年《祝祭ガラ》

この公演のチケットを買ったのは、他のダンサーたちには申し訳ないけど、シルヴィ・ギエムが出演するからでした。
シルヴィ・ギエム引退表明の報に接して程なく追加公演の知らせが入り、ダメ元でネット予約にアクセスしたところ辛うじて2階Lブロックを取ることができたのでした。











マラーホフの『ペトルーシュカ』はもちろん申し分ないのだけど、バレリーナムーア人の当て付けが今ひとつ真に迫らず、ペトルーシュカの哀れさが際立たなかったような気がします。

『スプリング・アンド・フォール』は白ずくめのダンサーたちがドヴォルザークの郷愁に満ちたセレナーデに合わせて繊細な群舞を披露します。
東京バレエ団の緻密な表現力と層の厚みを感じさせるなかなかの舞台でした。

しかし次の『オネーギン』を見ると、東京バレエ団に足りないものがわかってくる気がします。
タチアナの吉岡美佳さんはルグリに対して決して見劣りしません。立派です。しかし、マニュエル・ルグリのような高貴で完成された男性を演じられるダンサーはいるのでしょうか?

『ラ・バヤデール』の群舞はは日本人にとても合っているのではないか。
一人ひとりの技は分からないけど、全体の調和のとれた美しさは以前映像で見たマリインスキーなど全く寄せ付けないものです。
上野水香さんのニキヤは可愛らしすぎると感じるけど、魅せられます。柄本弾さんも若さと力にあふれる好演です。


さてシルヴィ・ギエムの『ボレロ』です。
引退表明後、日本で最初の舞台だと思います。会場の熱気もそのためであることは間違いありません。

ジョルジュ・ドンはついこの前見返したばかりです。ニコラ・ル・リッシュも放送で見ました。
でも私が見たかったボレロシルヴィ・ギエムの実演です。

結論から書くと本当に素晴らしかった。
彼女はもうジョルジュ・ドンやニコラ・ル・リッシュのように筋肉をはち切れんばかりに緊張させたり、心肺が潰れるほどの動きをしたりはしません。
関節も動きも全てが柔らかく、長い髪も巧みに使って、残像現象まで自由に操り自分と空間を思いのままに曲げたり伸ばしたりします。
ボレロのクレッシェンドに合わせて豊かさが増していき、広大なNHKホールが彼女に包容されてしまうようです。

昔テレビで初めてこれを見た時は、誰が演じていたのか意識もしていなかったのでわかりませんが、この音楽を一人の人間の肢体で表現するのはやはり無理ではないか、と感じたのを覚えています(周りのダンサーもいるのですけどね)。
この日のシルヴィ・ギエムからはそんな「ムリ」を全く感じません。

見たかったボレロ。『ベジャールボレロ』から『ギエムのボレロ』になった至高のダンスを十分に見ることができました。



NHKホール2階Lブロックは、ホールのエントランスから一番近い位置にあるのですが、舞台がさほど遠くはなく視線も遮られることは一切ないので快適でした。
視線が屋根のペトルーシュカより更に上であることは玉に瑕ですが。

オーケストラの音がオケピットの中でまろやかになり、ステージよりも聴きやすいと感じました。皮肉なものです。

[2014-8-29]