森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

パリ・オペラ座バレエ公演

パリ・オペラ座バレエ公演

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ドリーブ『コッペリア

演出・振付:パトリス・バール
出 演:
 スワニルダ=ドロテ・ジルベール(エトワール)
 フランツ=マチアス・エイマン(エトワール)
 コッペリウス=ジョゼ・マルティネス(エトワール)
 スパランツァーニ=ファブリス・ブルジョワ(客演)
指 揮:コーエン・ケッセルス
管弦楽:コロンヌ管弦楽団

2011年3月22,24,28日 パリ・オペラ座 ガルニエ宮



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出 演:
 バンジャマン・ペッシュ(エトワール)
 カール・パケット(プルミエ)
 パリ・オペラ座バレエ団
指 揮:ヴェロ・パーン

2008年12月 パリ・オペラ座 バスチーユ


ドビュッシー『ヌアージュ(今日のイチオシ)

振 付:イリ・キリアン
出 演:
 ドロテ・ジルベール(エトワール)
 マニュエル・ルグリ(エトワール)
指 揮:ヴェロ・パーン

2008年12月 パリ・オペラ座 バスチーユ


出 演:
 ニコラ・ル・リッシュ(エトワール)
 ヤン・ブリダール(プルミエ)
 カール・パケット(プルミエ)
 パリ・オペラ座バレエ団
指 揮:ヴェロ・パーン
2008年12月 パリ・オペラ座 バスチーユ


コッペリアクラシック音楽としてはしばしば耳にしていましたがバレエの映像を見るのは初めてです。
オートマタを題材にした物語ということも初めて知りました。

自動人形作りのコッペリウスは村娘スワニルダの命を奪って人形コッペリアに与えようとする・・・

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とてもキュートで可憐なクラシックバレエなのだけど、最初に感じたのは何故か違和感でした。

パリ・オペラ座バレエはモダンバレエをたくさん見たり記録映画で凄まじい修練のシーンをいくつも見たので、こんなに可愛らしい村娘を彼女が踊っていることに似つかわしくない感じを持ってしまったのです。

「ドロテ・ジルベールって、凄まじいアスリートなのに・・・」なんて。

そして多分ドロテ・ジルベールのダンスがシャープすぎるという事もそれを助長しているのではないでしょうか。
いや決して彼女を過小評価しているのではありません。
むしろもっと凄い人なのに、なんでチマチマした村娘?というフラストレーションです。

ドロテ・ジルベールの日本語版オフシャルHPがあります。
本当に素敵。


ジョゼ・マルティネスは素晴らしかったです。
容姿もノーブルで、アヘンに酔ってふらつくダンスも、人形風の振る舞いをする踊りも見事です。

マチアス・エイマンも体操のお兄さん系の容姿はその健全な踊りっぷりとともに村の青年に似つかわしいものですが、オペラ座の女性エトワールたちと吊り合わないなあと邪道的な見方を誘ってしまうのです。すいません。

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そして一番注意を引いたのはコッペリウスの部屋にある三体のオートマタたちのダンスです。

「バネとゼンマイが動力源」という動きを「おおっ!」と目を凝らしてしまうほどみごとに表現していました。

それからスパランツァーニ役のファブリス・ブルジョワ
セリフが書き留められそうなほどの実に見事な「演技」でした。





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第二次大戦で、パルチザンのリーダーが倒れてしまうが火の鳥となって蘇り同士たちも同じく火の鳥となって力強く立ち上がる・・・という感じかな。





ソロも群舞もベジャールらしく、(ダンスの事はわからないので音楽用語で言うと)アゴーギクの強い、強健な感じの火の鳥です。
私は手塚治虫の影響か火の鳥は女性のイメージなのですがこれは完全に男性、いや、烈火の如きベジャールその人そのもの、といえましょうか。

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フォーキンのように軽やかに飛び回るイメージではなく力強く躍動するイメージですが、素晴らしい力感に満ちた感動的なバレエでした。


















『ヌアージュ
コッペリアでのフラストレーションを見事に払拭してくれたダンスです。
見たかったドロテ・ジルベールはこれだ!という内容です。

柔らかく強く、しなやかでエレガント。
激しく動いているのに瞑想的な静けさ。

形も動きも本当に美しく、生命力に満ち溢れた繊細さが汲めど尽きぬ感覚の喜びに浸らせてくれます。

ダンスで涙がでるほど感動するというのは稀有な体験です。

ドロテ・ジルベールもマニュエル・ルグリも、素晴らしいアーティストです。

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(ため息が出るほど、美しい)


ボレロ

私の大好きなニコラ・ル・リッシュのボレロ。これを待っていたという期待の舞台です。

一番最近見たのはシルヴィ・ギエムが東京で踊ったものです。
独特の柔らかさを持った緩急で表現が何倍にも拡大されて伝わってくるような素晴らしさでした。

ここでのニコラ・ル・リッシュはもっと肉体そのものの表現力に注力しているような印象です。

筋力は当然シルヴィ・ギエムよりもニコラ・ル・リッシュのほうがはるかに強いはずですが、どういうわけか彼の方が小さな人に見えてしまうし、力が弧を描いて周りの空間に伸びていくように感じられるのはシルヴィ・ギエムの方でした。
(実際に彼女の手はかなり長いのでしょうか?)

100年に一度の天才と呼ばれなおかつ40歳を過ぎて表現力の極まったシルヴィ・ギエムの一本勝ちといったところでしょうか。

ニコラ・ル・リッシュは凄まじい肉体表現力で手に汗握る力感はシルヴィ・ギエムを圧倒していますが、舞踊表現の心理的力学に探求すべき余地があるように感じました。
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[2012-4-22]