森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

松伯美術館・三年坂美術館

松伯美術館は上村松園と息子の作品を中心に展示する美術館です。
今回これほど松伯美術館にこだわったのは二年半前の痛恨事があったからです。
今回はキチンと調べてきたから大丈夫!

近鉄奈良線学園前駅からバスまたはタクシーで大渕池公園へ向かい、大渕池を渡りきると橋の袂に松伯美術館はあります。

松伯美術館の敷地から橋を振り返る。
同じアングルの写真も2月と9月では全く違って見えます。
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近代的な建物です。
そう言えば上村松園展も国立近代美術館でしたが、私は松園の絵を明治大正の館に懸けたらモチーフの生活感や色彩のモダンさなど松園の特質がより映えると思うのですが。
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エントランスが緑をくぐった向こうとはホッとします。
同じ池の畔でも横山大観記念館は車道に面して酷いものですので。
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この日の展示は『女性たちの物語』
松園の絵はそもそもほとんどが女性を題材にしていますが、今回は日常を切り取ったような絵ではなくワケありな題材を描いたものを集めています。

入館してまず目に飛び込んでくるのが
『税所敦子孝養図』の下絵なのですが、これがいきなり鮮烈です。
西洋風の正確なデッサンと遠近法を隈取る線はまるで雪舟の秋冬山水図。デッサンに加えて線でも遠近と動きを表現しています。

線の名人と言われた松園ですが、完成された絵に見せる精密な線とは違った、鈴木松年ゆずりの豪快な筆使いが松園のイメージを覆す見事さです。

近くにある『梅花粧図』の下絵はところどころ彩色してあって、これが水墨画の梅や椿に彩色したときのように清冽で、下図とはいえ途方も無い美しさを備えています。

スケッチや習作も数多く展示されていて、松園の基礎的画力の凄さをまざまざと実感できます。
これを知ると松園の絵に見られる人体の伸縮がアングルのそれと同様に完全にコントロールされた美の表現だということがよくわかります。

名作の小下図・大下図・本画がいっぱいで大変充実した展示でした。
来た甲斐がありました。


と、ここで終わりではなくものすごい勢いで京都に向かい三年坂美術館に間に合わせました。

三年坂美術館は漆絵・牙彫・七宝焼きなど、明治・大正期の美術工芸品を収集する美術館です。
収蔵作家を特集する番組がたびたびNHKで放送されずっと行ってみたかったところです。
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間口も館内もこじんまりとした美術館ですが、素晴らしいコレクションです。
人間業とは思えない精緻な工芸品の数々は、美しさだけではなく気圧されるような凄みを持っています。
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この日は刺繍絵画の企画展をやっていて、私はあまり興味がなかったのですが実際に見てみるとこれも凄まじい職人魂を見せつける作品ばかりで、刺繍のイメージが完全に変わってしまいました。
日本画も西洋画も鉱物の透過性と乱反射の関係で印刷では味わえない色の輝きをもっていますが、金糸銀糸に染料をほどこしたものによる刺繍は見る角度によって激しく変化するグラデーションで視覚を刺激します。
そしてうっすらと空に溶けていく富士山の淡い表現など、縞模様など全く見られない不思議な刺繍。

驚きでした。

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今回の奈良・京都の旅は慌ただしいけど、感銘の連続となる贅沢な旅となりました。
美しい歴史遺産に感謝です。


[2013-9-28]