森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

Silk - シルク(絹) バリッコ

"Silk" 

イメージ 1
著者:Alessandro Baricco
翻訳:Ann Goldstein
出版:vintage international

バリッコの『シルク』。イタリア語の作品を英訳で読んでみました。

ストーリーの骨格は映画版と大きくは変わりませんが終盤に違いがあり、映画ではエレーヌの愛に比重が置かれますが小説ではあくまでエルヴェの物語として終わります。

様々な色合いを持つ言葉を美しく並べて、静かで豊かな音楽のような文章です。
主人公の4度にわたる日本への旅とその帰路は長大な韻律のように同じ文章で叙述されるのですが、その4度目に訪れる破調は静かな言葉をもって大きな波紋となります。
絹のように透明で軽く掴みどころのない文章は、大きな力を持ち狂おしいほどの愛を描いていました。

私はこの物語に2つの愛の成就を見ました。

20,000キロの彼方で一言も言葉を交わさず成就し終わった愛。
慈しみ合いながらも彼方を見る夫の視線の先へ行ってしまうことで初めて成就した夫婦の愛。

一人の男の罪の物語と切り捨ててしまえばそれだけだけど、様々な愛への距離を、夢も現実も踏まえて生きてきたなら、心の深い所に秘めていた哀歌が立ち昇ってきて揺さぶり響くのを感じるはずです。


[2013-9-18]