森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

コミック 『澄江堂主人』 山川直人

澄江堂主人 前編・中篇・後編

作者:山川直人


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澄江堂主人とは芥川龍之介の号です。
昭和23年3月18日から7月24日に亡くなるまでを三冊で濃密に描いています。

特筆すべきは全ての小説家の職業が漫画家に置き換えられていることです。
そのことの意義や効果は読了後になってもあまり理解できないのですが、山川にとってはその方がやりやすかったのかもしれません。
現にここには龍之介を始め係わりのある作家たちの生活感と文壇や出版界の空気感が極めて身近に生き生きと描き出すことに成功しています。

山川直人木版画を思わせる画風はいよいよ精緻を極めて素晴らしく、1コマひとコマに深い味わいがあります。
そして出版社のエンターブレインもよくやってくれて、通常のコミック単行本とは違う厚手で茶色がかった紙を使いカバーは重厚なデザインで全体にレトロな品格をもった立派な出版物となっています。

ここに描かれる龍之介は意外に柔らかく剽軽で押しに弱く、まるで家族か付き人になったかのように身近に見るこの特異な作家の生活と思惟の様子は成る程あの小説たちはここから出たのか、と根っこや繋がりが理解できる気になります。

この描写が事実にどれだけ迫っているのか私にはわかりません。とはいえこれは学術書ではなく独自の味わいと美感を持った創作物であって山川はそこに真摯な研究と解釈を盛り込んだのだと思います。
そういう意味で私はこのマンガがとても美しく、誠意と敬意と愛情を持った優れた作品であると感じながら堪能しました。

たくさんの人に読んでもらいたい作品です。


[2013-2-23]