『ふしぎな図書館』 - 村上春樹
ふしぎな図書館
講談社文庫
村上春樹の書く大人の童話です。
佐々木マキさんによる挿絵は海外の児童本のクラシックみたいな画風。
しかし現代的でさわやかな色使いになっていて郷愁と新しさを同時に感じさせながらとても和む絵です。
と思って油断して読んでいると・・・
主人公は男の子で、図書館で本を返却したついでに「オスマントルコ帝国の税金のあつめかた」に関する本を借りようと、司書のおじいさんに相談します。
そこから世にも奇怪な体験が始まります。
子供の頃に沢山読んだ毒を抜かれた童話と違って、これは本物の「怖い童話」です。まあ、グリム童話ほどではないかもしれませんが。
そして最も引っかかるのは、村上春樹の心の空洞はどこから来たのか?ということです。
こんなシンプルなストーリーでこれでもかというほどの喪失を訴えてくるとは。
まるで夢を書き取ったようで全く辻褄の合わないストーリーですがそれはいい。
セリフが小賢しくて行動が優柔不断のまるで現代子な主人公。
目まぐるしく進行していく状況の中、自分の運命に対しまるで他人ごとのように論評を続けるこの主人公の少年とその虚無的なエンディングはどう捉え、何を感じればいいのでしょう?
自我を築くための旅の果てにあったのは喪失。
言葉を噛み締めるように読んでも30分で読めてしまうこの童話の世界には5年後に書かれる『ノルウェイの森』のエッセンスがすでにいっぱいに詰まっている気がしました。
[2012-11-8]