森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

チェーホフ 《三人姉妹》

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チェーホフ 《三人姉妹》
訳:神西 清








三人の教養のある姉妹と兄、それに貴族や軍人などが入り乱れて非常に多くの内容を盛り込んだ作品です。

怠惰と義憤。愚鈍と知性。蒙昧と侮蔑。下劣と高潔。慇懃と無礼。友情と殺し合い。
そして現実逃避。

人の個性や人生のあり方と人間関係の態様がぎっしりと詰め込まれているのです。

戯曲なので説明的な要素は一切無く簡明でリズムのあるセリフによってその人物たちを肌で感じ取ることができるようです。
そのため、現実では知り合いの人間関係がどんなに複雑であろうと混乱したりはしないように、この戯曲を読んでいて迷路に嵌ることはありません。

この人物たちの滑稽な行動やセリフがえも言われぬ悲しい狂詩曲を奏でていて、最期の「それがわかったら・・」が胸を打ちます。

彼女の夢は?
彼らの想いは?
一人ひとりの内面に、夢と挫折に、もっと想いを馳せてみたい。

まるで音楽から受けるような感銘は、音楽を何度も聴き返したいのと同様に、何度も読み返したいと思えます。


《桜の園》のように特定の時代背景のあるテーマを読み替える必要もなく、普遍的な人間ドラマを味わうことができる作品です。


[2012-2-24]