森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

クレーの絵本

クレーの絵本イメージ 1

1995年 講談社

















近くクレーの展覧会に行くので久しぶりに 《クレーの絵本》 を取り出してみてみました。

表紙は《黄金の魚》
私には、躍動感の全く無いこの既に死んだような魚が不思議に輝いており、別なところにある生命がこの魚の肉体を通して輝いている、というように感じます。

このような絵ですから、感じるところは人それぞれでしょう。
しかし、クレーの絵はどの一つをとってもハッキリとは言葉に出来ないけれど、既に知っているし、昔感じたことのある感覚を呼び覚ますものがあると感じるのです。

谷川俊太郎氏はその絵に即した詩を添えて行きます。
谷川さんの詩には、世の中に対して斜に構えているようでもあるけれども、とても素直な感受性から発せられたような、ブラックでシニカルで素朴な観照が綴られています。

その素直で素朴でブラックな感受性は、愛を基盤にしていることもよく分かります。

冒頭の 《愛》 という詩はまだクレーの絵を一枚も見ていないのに、この本を完読してしまったかのような読み応えを感じます。
しかし、絵と詩を交互に読み進めて行くほど、愛と悲しみと怒りの様々な相が、言語の外にある言葉の積み重ねが、クレーの絵のように、真っ白な想念のキャンバスに切なく恐ろしく塗り重ねられていくのを感じるのです。

イメージ 2

クレーの絵から想起するものは、私と谷川さんでは同じではないけれど、不同意な気持ちが不思議なほど起こらない、純粋なことばたち。

美しく恐ろしいクレーの世界をある鋭敏な詩人の心象を通して観るるような、とても興味深い本です。


[2011-6-6]