紫陽花コンサート2011 イリーナ・メジューエワ ピアノ・リサイタル
紫陽花コンサート2011
イリーナ・メジューエワ
ピアノ・リサイタル
杜のホールはしもと・ホール
2011-6-5
ショパン:ワルツ OP.64-1 《子犬のワルツ》
ショパン:ワルツ OP.64-2
ショパン:プレリュード OP.28-15 《雨だれ》
休憩
シューベルト-リスト:水車小屋の男と小川
シューベルト-リスト:さすらい人
シューベルト-リスト:連祷
リスト:エステ荘の噴水
リスト:ピアノ小品 S.192-2
リスト:ノクターン S.207
リスト:コンソレーション 1,2,3
リスト:ラ・カンパネラ
アンコール
座席が最前列でしかもステージが低いのでまるで私のために弾いてもらっているように音が響きます。
少なくとも音響的にはステージ上と同じだと思います。
ステージの空間で音が四方八方から跳ね返ってくるのを感じます。
モーツァルトの出だしから少し驚きます。
即興性や溌剌とした感じよりも、まろやかだったり輝いたりゴツゴツしたり。
まるでベートーヴェン。
音色はブリリアントで透明だけど硬質ではなく、みずみずしいゼリーの珠を散らしたよう。
ペダルワークは非常に細かく、ハーフペダルも様々な加減で使っているのがわかります。
またソフトペダルも多用していました。
それがあからさまに、ペダリングしましたというような効果を示すのではなく、ソノリティの妙味として表れています。
ソノリティの渦が聴き手を包みこんで心をステージ上にさらっていくような、物凄い引力を放っています。
とにかく音色が美しく、表現も息を飲むほど洗練されています。
どっしりと揺らぎないテンポ設定を基盤に、キラキラと旋律が舞ったり留まったり、天国の野原に身を埋めるような感覚です。
休憩前のショパンでは最高音を遠慮しているのかと思う程、埋もれがちに感じたのですが、休憩中の調律で音色が変わりました。
つまり、どっしりとした低音にのって柔らかかったり繊細だったりする高音部が十分訴えかけてくるようになったのです。
そしてこの日私が最も感動したのは休憩後のリスト編曲によるシューベルトでした。
水車小屋は私がシューベルトの歌曲集で一番好きなもので、自分でも何曲か歌ったことがありますが、このピアノによる歌詞を持たないシューベルトは始めこそ歌に比べてサラッと流れてしまうように聴こえますが、やがてシューベルトの静かな絶叫が聞こえてくるような気がして、涙を禁じえませんでした。
リストも極めて美しく、これ見よがしな打鍵の羅列ではなく、これ見よがしな美しさと言える音楽になっていました。
以前 「リストが苦手」 と書きましたが、目からウロコとはまさにこのことで、もう次々とリストを聴きたくなってきます。
ノクターンS207のラストでは会場全体が息を飲み完全な無音・無呼吸状態になりました。
誰も咳払いしない、誰もチラシをメクらない、誰も身じろがない。
この音を逃してはならないと、そこにいる全ての聴衆が覚醒し感性を研ぎ澄ませ一体となって彼女の音に心を委ねている。
まったく稀有なことです。
メジューエワはとてつもない進化を遂げており、輝きと力強さを増しています。
あなたはほんとうに素晴らしい。
7階が《ホール》8階が《多目的室》。
練習室3つとバンド練習もできる音楽スタジオがあり、充実した施設です。
6,7,8階が吹き抜けになっています。
カフェは演奏会前後のひとときにもってこいでしょう。
前述のとおり最前列という特殊な条件なので確かな事は言えませんが、残響が豊かで音色が美しく、繊細な弱音も十分響く大変優れたホールだと感じます。
中低音が軽く感じたのは最前列のため中高音が聞こえ過ぎたからかも知れません。
とにかく、ため息が出るほど美しい音色と音楽を聴くことができ、幸福な時間を過ごせました。
本当に本当に幸せだった。
[2011-6-5]
オフィシャルホームページに当日アンコールの動画がアップロードされていました。
[2011-6-22]