森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

The BRIDGES of MADISON COUNTY - マディソン郡の橋

イメージ 1The BRIDGES of MADISON COUNTY - マディソン郡の橋
作者:ROBERT JAMES WALLER
出版社:RANDOM HOUSE - ARROW BOOKS

以前邦訳で読み始めて、どこがいいのかわからず挫折した作品です。

とっても平易な英語で書かれていて、単語も日常会話レベルのものです。
しかし不思議と柔らかく漂うような文体です。情景や心情が頭の中にスムーズに入ってきます。

読んでいて思い出したことがあります。
以前'Newsweek'(英語版)を購読していたのですが、そこで『俳句』のコーナーが連載されていました
英語で俳句?と不思議に思ったのは言うまでもありませんが、五・七・五は無いにしてもちゃんと俳句になっている・・
少ない語数で風景と空気感を伝える俳句の本質が見事に英語で表現されているのです。

この作品も同じように、柔らかくも深く心に染み入って来るような力を持った文章です。


主人公のKincaid-キンケイドは精悍な肉体と詩的で禁欲的な精神を持つ52歳のカメラマン。'meadow'と'pasture'の違いを気にかける繊細で深いイマジネーションの持ち主です。
Francesca-フランチェスカナポリ比較文学を学び、とにかくアメリカに行ければ、とアイオワの農場に嫁いで20余年の45歳。牛の品評会に夢中な夫と子供らに取り残されています。

ストイックな旅行生活のカメラマンと田舎で教養と情熱を持て余す女性の出会い。と書くとありきたりの話になってしまいます。

その、それぞれの心の内が詩的な文体で美しく綴られます。

こんな禁欲的な二人だからこそ、生涯心を暖め続けた愛といつくしみ・・
心を打ちます。

キンケイドが出会ったばかりのフランチェスカに紹介する文言。

"The old dreams were good dreams; they did'nt work out, but I'm glad I had them."

美しいセリフが数々語られますが、私にはこれがこの愛の物語の基調に感じられます。



[2009-5-17]