森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

ロアルド・ダールの叫び- Charlie and the Chocolate Factory

Charlie and the Chocolate Factory

イメージ 1Charlie and the Chocolate Factoryチャーリーとチョコレート工場
出版社: PUFFIN MODERN CLASSICS - penguin
作者:Roald Dahl
挿絵:Quentin Blake

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世間では児童書としての評価がされていますが、はっきり言います。それは間違いです。
どう考えてもこれは、作者のDahl(ダール)が世の大人に向けて書いた教条書です。

原作には映画と違ってWilly Wonka(ウィリー・ウォンカ)の父は登場せず、家族愛が強く描かれることはありません。
ただひたすら、躾の悪い子供の醜悪さと、子供をそうさせた親の愚かさを描いています。
出だしは子供非難、徐々に親と大人の造った文明に対する非難の度合いを強めていきます。
親を徹底的に馬鹿にしこき下ろすあたりは、とても子供たちに読ませるために書いたとは思われません。

これらは概ねOompa-Loompa(ウンパー・ルンパー)たちの歌という形で語られます。
歌といっても、少し倒置を使った程度のストレートな文章です。

私は映画のOompa-Loompaが気味悪く、歌のシーンになるとあまり真剣に見ていなかったので、大人に対する非難は覚えていません。流していたのだと思います。
(小説のOompa-Loompaはただ「髪の長い小さい人たち」というだけで、映画のような容姿ではありません。)

子供を責める

チョコレートの川に落ちたAugustus Gloopがお菓子にされてしまうのを心配する母親に、Wonkaはこう言います。

"I would't allow it. Because the taste will be terrible."
「そんな事はさせないよ。だって恐ろしく不味そうじゃないか。」

そしてOompa-Loompaは
"The great big greedy nincompoop!","However long this pig might live?"
「このドデカイ食いしん坊の間抜けめ!こんなブタがいつまで生きているんだ?」
なんてふうに、丸々2ページを費やして子供を罵ります。

教科書には絶対に出てこない、原書の醍醐味でもありますが・・


リスに頭をたたかれ、空っぽの判定を受けてgarbage shuteに落とされる Veruca Salt。
そこでは、いろいろなゴミが新しい友達だ、良かったね!と歌われます。
がしかし途中で

"Is she the only one at fault?"
「彼女だけが悪いのか?」
と問うて来ます。
"A girl can't spoil herself. Who spoiled her,then?"
「女の子が自分自身を貶(おとし)めたりしない。じゃあ、だれが彼女をダメにしたんだ。」

大人を責める

最後にテレビの虫のMike Teaveeが転送されて縮小してしまった後
「子供たちがテレビに釘付けになってる間は、大人は解放されるね」
と大人を責めて

"It rots the senses in the head!","It kills imagination dead!"
「テレビはセンスもイマジネーションも根絶やしにする」
"He can no longer understand a fantasy, a fairyland!"
「もう、彼にはファンタジーも妖精の国も必要なくなってしまうんだ!」
と本音が・・

「テレビなんていうモンスターは捨ててしまって、その場所に愛すべき本棚を設置しなさい」
となって来ます。

この歌には4ページ費やされます。
この4ページは子供をもつ親たちに対する悲痛な非難声明です。
だって、子供にこんな嘆き節を聞かせても仕方ないですからね。

私は物質文明に危惧を感じているので、この作者に非常にシンパシーを感じます。

想像の世界は越えられない

想像の中では、前後左右上下、遠くと近く、音と匂いと手触り、全てを同時に感じることができますね。
でも、いろいろな人と会話すると、それができない人もいるようなのです。

以前『ハリー・ポッター』を読んだ息子たちに、
「本から想像する世界と映画とどっちがすごい?」
と質問したときに
「想像の方が全然すごいよ、映画はショボイ」
という返事が返ってきたときに、とても安心したものです。

私は、アーサー王と円卓の騎士の話やら宝島やら、少し大きくなってペルシダーやレンズマンシリーズなど、イマジネーションをかきたてられてきました。
最近のCGによるVFXもすごいけど、直接的に描けば描くほど創造の世界を2次元に閉じ込める窮屈さを感じてしまうのです。

ロアルド・ダールにしかられない大人でいたいと思います。


英語教材として

ちなみに、英語はとても平易に書かれていて、子供向けというより非ネイティブ向けの学習書のような文体です。
ロアルド・ダールはこれしか知らないのですが、いつもこういう文体なのでしょうか?

従って、高校英語が及第点だった人なら淀みなく読めるでしょう。
もちろん、日本の英語教科書にない単語やちょっとした気の利いた表現はある程度楽しめます。

挿絵のQuentin BlakeはロンドンのRoyal College of Artでイラストレーションを教えているそうです。
大学の先生という堅いイメージではない、表情豊かな素敵な挿絵です。

[2009-2-10]