森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

アリス=紗良・オット&オーケストラ・アンサンブル金沢

アリス=紗良・オット&オーケストラ・アンサンブル金沢

CD 超絶技巧練習曲ですっかり気に入ってしまったアリス=紗良・オットさんがソロを務めるコンサートに行ってきました。

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東京国際フォーラム ホールC
オーケストラ・アンサンブル金沢
指揮:井上道義
ピアノ:アリス=紗良・オット

オール・ベートーヴェン・プログラム
エグモント序曲 Op.84
ピアノ協奏曲第5番 Op.73 「皇帝」
交響曲第7番 Op.92

東京国際フォーラム

イメージ 2イメージ 3東京国際フォーラムは何度行っても撮影ポイントの宝庫です

私はこのオーケストラは初めてで、座席も3階で反響板より上という不利な条件なので、今日はちょっと批評に自信がありません。

イメージ 4うーん、実に遠い
ステージ下手の椅子のかたまりは、プレコンサートの演奏者席です。

プレコンサート

予告どおり開演前にオケのメンバーによるプレコンサートがありました。
編成は次の通りで、小さいながらもトーンはフルオーケストラ。
バイオリン x 2
ビオラ
チェロ
コントラバス
フルート(ピッコロ)
クラリネット
オーボエ(だったかな?遠くてリードが見えなかったけど。音も判別できなかった・・面目ない)
ホルン

曲目は
金と銀・観光列車・美しく青きドナウ・天国と地獄

ピッチの心配はほとんどなく、音量も3階からでも不足ありませんでした。
譜面をなぞるような演奏からは遠い、豊かな抑揚とメリハリをもった楽しい演奏でした。
初めて聴くオーケストラですがこの時点で、地方オーケストラの水準をずいぶん越えていることがわかりました。

さて、本番開演

オーケストラはやはり小さい印象です。
弦は全ての曲で[4]-[4]-[2]-[2]-[1.5(3人)]という編成。後で調べたら、全員参加のようですね。
金管は曲なりの本数あるわけで、力負けが心配です。
ちなみに第7番で総勢40名でした。

エグモント序曲
「エグモント序曲」が始まった途端ビックリしました。室内オケ的な透明で軽い響きを予期していたら、出てきたのは濃厚で中低音が厚いサウンドで、表情もやわらかく豊かです。
よくアマチュアのオケでピッチがバラついているために響きの線が太くなる例がありますが、これはそういうものではありません。
なかなか立派です。いや、私の認識不足でした。
エグモントは正直に良かったです。うるさい音のしない、コクのあるエグモントは貴重ですね。

そして、今日のお目当てのアリス=紗良・オットさんの出番です。

皇帝
たぶん今まであれこれ100回以上聴いてきた皇帝ですが、どう料理してくれるでしょう?
やはり彼女は、「いつもの皇帝」にはしていませんでした。初めて聴くバランスや表情が聞こえてきました。
彼女の演奏の良いところは、固定観念が出来上がる前ならいろいろな解釈があったはずの楽譜から、彼女なりの自然さで王道とは違ったやり方になった、と感じられるところです。
衒(てら)いは感じられず、今はこういう風に弾くのが好きなんだということが感じられます。
まあ、しかしそこは「皇帝」なのでそれほど自由度が高いとは言えませんでしたが・・
テンポがかなり動く演奏でしたが、指揮・オケ・ソロの息はもうピッタリでした。
第一楽章の再現部で、鳥肌が立ったことを告白しておきます。

それにしても指揮の井上道義さんは、このオーケストラをうまく活かしています。
ピリオド・スタイルのような快速運転でいて、濃厚な表情と厚い音色を持たせ、サイズからは考えられないような低重心の音楽を聴かせます。

アンコールは「ラ・カンパネラ」
完全に手のうちに入った、という演奏でしたが、NHKで放映された演奏ともまた違った表情を見せていました。
うーん、すごい。いや、指の回る人は他にもいくらでもいるでしょう。しかし、何かが違う。「どう、ついて来られる?」という感覚は一切なく、至芸の世界にしっかりエスコートしてくれます。この貴重な資質をいつまでも保ち続けて欲しいと思います。

ただ残念なことに座席が遠く、コンチェルトもソロもピアノの音が丸まってしまっていました。正直言うと彼女のピアノに求めていた多くの部分が、空間に吸い取られてしまった印象があります。(バイオリンや金管の音にも同じことを感じました)
(この席を選んだのは、両手の見える位置がここしか空いてなかったからです)

20分の休憩
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3階通路は閑散と・・
狭いけど美しい造りです


演目を見たとき正直言って「この曲がこのオケにふさわしいのだろうか?」という疑問を持ちました。
しかし、始まってみるとそんな考えは間違いだったとわかりました。

第一楽章が始まると、やはりオケの小ささは隠せませんが、大きな抑揚のある演奏なので音楽的な充足感は十分でした。
第二楽章ではオケの音のうねりは出せませんが、情感に不足があるとは感じられませんでした。
第四楽章は実際に踊れる速度を超えた、頭の中の舞踏が全開になるような快演でした。
ちょっと、アーティキュレーションが追いついていないと感じる場面があるくらい、演奏者にとっても「速い」と意識する速度だったと思います。
しかし、実演のパフォーマンスはそれくらいでいいのではないでしょうか。

全体的に体に覚えている速度より速くサウンドは渋いので、ことさらリズムを強調しているわけではないのだけど、ワーグナーが「舞踏の聖化」と言ったということが実感できる演奏でした。

オーケストラ紹介とアンコール

井上道義さんがちょっとたどたどしく、オーケストラを紹介してくれました。
11カ国・20都道府県からメンバーが集まっているそうです。
そして
トルコ行進曲ベートーヴェン)とドラマ篤姫の挿入曲(私は見ていませんので知らない曲でした)
これらも、曲の魅力をたっぷり引き出した良質な演奏でした。

井上さんの情熱とオケに対する愛情が感じられるステージでした。
「これは、団員もやる気が湧くな」と思いました。
自分自身や音楽のためだけではなく、みんなで盛り上がってその気になる、というのは重要な要素です。うらやましいオーケストラです。

言うまでもないことですが、井上さんのいつものダンスもたっぷり楽しめました。小オーケストラ相手でも、振りは全開ですね。

サイン会

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最後にアリス=紗良・オットさんのサイン会があり、姿を間近で拝見できました。
何と言うか・・DNAの違いを嫌というほど実感できました。
胸のあたりから右上がりに、シルバーのサインが見えるでしょうか?

帰りにある方から、井上道義さんから直接聞いたという出生の秘密を教えてもらいました。
帰って調べたらその内容は既に公表されていて、逆にホッとしました。どうもありがとうございました。