森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

求塚 友枝昭世

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求塚(もとめづか)
第八回日経能楽鑑賞会
2014年6月5日 国立能楽堂

シテ:友枝昭世



忙しくて、見てからずいぶん時間が経ってしまったけど、余りにインパクトが強かったので記しておきたい。


二人の男声に求愛された少女がどちらを選んでも恨みを買うと考え、生田川のオシドリを射止めた方を選ぶことにする。
ところが二人の射た矢は同時に一羽のオシドリを射抜き、番の片方が飛び去る。

男たちを試したこととオシドリの番の一方を殺傷してしまった罪に気づき、その場で少女は入水する。
男たちはその場で刺し違えて死ぬ。
地獄に落ちた少女は男たちの亡霊に責め立てられ、地獄の鉄鳥となったオシドリに永遠に頭をついばまれ続ける。

通常は僧によって魂を救われ感謝の舞を披露してから成仏していく、となるのだけどこの曲ではそうはならない。
少女は苦しみの嗚咽を残し地下に帰っていく。

この時代の厳しい仏教観では、人を試し殺生させる行為のみならず入水すらも自己救済として許されなかったのだと言う。

友枝昭世さんの謡いは、地の底から湧いてくる怨念の喘ぎ声であり、地獄の責め苦を舞台にあらしめる恐るべきものでした。
後シテが素晴らしいといつまでもこの演舞が続いてほしいと思うものですが、この時ばかりはあまりの恐ろしさに耐えがたくなってしまいました。
終盤が短時間で終わってしまったのですが、もう十分という思いです。

人間国宝の表現力は想像を超えた凄まじいものでした。
友枝昭世さんのチケットはなかなか取れないのですが、この次は是非救いのある演目を見てみたいと思います。

[2014-7-13]