森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

グラン・ブルーとシーマスター

実に久しぶりに2日続けての休みを得て、録画したまま何年も棚晒しにしていた「グラン・ブルー」を見た。
ジャック・マイヨールの半生を描いた映画だ。

モノクロームで描かれるプロローグ部分から引き込まれる。海面の波模様も海中の魚群も、波の音はもちろん港の生活音も心地良い。
題名を逆手に取ってモノクロームで始めるとは心憎いではないか。

話はマイヨールの一番輝いていた時期を抜き出し美しく脚色して描いたようだ。
穏やかで、世俗の喧騒を嫌い海とイルカを愛し地上にいることを苦手とし、いつも海に帰りたいと願っているような青年の前半生のそのまた断章だ。
親友を失ったり、地上の彼女と海のイルカの板挟みを描いたラストがマイヨールのその後の苦難を暗示して終わっている。

海を大切にしようとか、イルカを愛そうなんてメッセージは微塵も無い。ただ、それらの美しさを描いているだけだ。それが清々しい。
ついでにマイヨールが「イルカに似ている」と評した都会の彼女も人工美と自然美を兼ね備えてとびきり美しい(ぼく好みなだけかもしれないが)。
そういう美しさたちに取り巻かれて、全ての生き物の故郷である海に何度も何度も飛び込むという体験をさせてくれる映画だ。

そうしてメッセージはぼくの中から自然と生まれてくる。



ところでぼくは素潜りのこともジャック・マイヨールの事も何も知らないけど、オメガのシーマスター120mを20年近く愛用している。

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この時計はマイヨールが潜水記録を樹立した時その腕に装着していた、と巷で言われているモデルだ。

素潜りのことを何も知らないぼくでも、腕時計を装着することが記録の妨げにこそなれ何のメリットもないと分かるのでそんな逸話は全く信じていないのだけど、なんとは無しにこれを腕にはめて見始めた。

水泳やウォータースポーツでは常にはめていた思い出深い時計だ。

この時計が本当に120mの素潜りに耐えうるかどうかは分からないけど、立ち乗りのジェットスキーで何度も転倒して海面にたたきつけられたけどへっちゃらだった。穏やかな入江で1時間以上立泳ぎしていた時もなんともない。
スイミングスクールに通っている中2の息子と浮島から浜のテントまで競争して辛うじて勝利した時もはめていた。ぶっ倒れて砂まみれになったけど平気だった。

何よりもこの時計の造形の美しさと精緻な造りを愛している。
曲線美が際立つのケース。ピンと張った秒針。柔らかくかつシャープなバーインデックス。
9連ブレスレットは硬いステンレスなのに指で撫でると蛇革のようなヌメッとした感触だ。

20年前に大人びた感じはなかったし、今は子供じみていない。
もちろん工芸品ではなく工業製品だけど、何もかもがきっちりと作りこまれていてスイスの矜持を感じる素敵な腕時計だ。
どうして絶版になってしまったのか不思議に思うけど、ぼくは一生使っていくだろう。
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[2014-7-12]