森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

『パシフィック・リム』を観て 3Dについて一言

3Dについて一言。
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3D映画はアバター以来最近の流行だと思ってる若い人たちが多いだろうけど全然そんなことはなくて、過去何十年もの間何度も流行っては廃れていった。
『仮面の忍者 赤影』で赤青メガネの3Dをやったけど、さすがに赤青は除外するとしても13日の金曜日3』ジョーズ3』は偏光メガネを使ったいっぱしの3Dだった。

そこで感じたのは、銛を眉間に近づけたり飛び出した眼球が飛んで来たりと、3Dにこだわりすぎてあまりに馬鹿馬鹿しく見辛い演出が蔓延していて気が散るだけのギミックに堕していたということだ。
なにしろ銛の先端はあまりに近すぎてどんなに寄り目にしても見えやしない。全編その連続で頭痛と吐き気。

さらにその頃の3Dは垂直・水平偏光を利用していて、ちょっとでも顔を傾けたり座席が端っこの方だったりすると映像が乱れてしまう上、逆側の映像を完全には遮蔽できずに結構見辛かったので映像の美しさを味わうことは絶望的だった。
それでみんな3D映画には懲りてしまったのだ。

ただ僕はそんな極端で馬鹿馬鹿しい立体視ではなく、リアリティーを高めるためにさり気なく使われれば良い結果をもたらすのではないかと感じ、将来はそのような作品が出てくることに幾ばくかの期待を持っていた。
それを確認したのはかつて新宿のタイムズスクエアにあったIMAXシアターで上映されたT-REX 現代によみがえる恐竜王国』。
その当時のIMAXシアターは専用に撮影された3D短編作品を上映するアトラクション施設だった。
そしてそのT-REXは鮮烈で美しい立体世界を楽しませてくれてストレスも感じない優れたものだった。

そして今回の3Dブーム。これは家庭でのビデオ鑑賞に対抗するための映画業界の打ち上げ花火であることは間違いない。ちょっと懐疑的になる。
アバターは観ていないけど世間ではかなり肯定的に受け入れられているようだし、根っからの新しいもの好きのおもちゃ好きなのでバイオハザードIV アフターライフを観てみた。

結果は満足の行くものだった。
スローモーションを多用して、水滴が飛び散る中を人が舞うシーンなどは3Dが芸術的効果を発揮していた。
3Dの必然性がないシーンは極めて緩い3D深度に押さえているし、監督の意図した構図や視線の誘導のためにフォーカス移動を利用しているときは当然3Dは抑制されている。
なる程これなら表現の一手段として映画の可能性を押し広げていると納得の行くものだった。ただ監督の仕事が大幅に複雑化しそうだな、と思いつつ。

その後『ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』は3Dでしか上映していなかったので3Dで観た。
これは監督のヴィム・ヴェンダースが3Dでしか成し得なかったと語っているほどには納得が行かなかった。
ある一人のダンサーを見ていると他のダンサーはフォーカスから外れて見えなくなってしまうから。フラストレーションに苛まれた。


さあいよいよパシフィック・リム
最近魅せられた映画の一つである『パンズ・ラビリンス』と同じギレルモ・デル・トロ監督の作品である。
こだわりの映像と作家性のあるストーリーをこのド派手な怪獣ロボット映画でどう発揮してくれるのか、楽しみだ。

まずは映画の中身について。
作家性もストーリーもなにもなく、怪獣とロボットの肉弾戦を人類史上最高の迫力で見せてくれる『偉大なるおバカ映画』だ。
大好きです。
僕は「ただスカッとするため」「ただカッコいいため」に物凄い労力とお金を投入するハリウッドの姿勢は好きだ。
アメリカ映画に蔓延する薄っぺらいドラマと偽善は大嫌いだけど、こういうおバカ映画ではそれが刺身のツマや寿司のバランほどの存在感もなく笑い飛ばせるものになっているから。
鉄の塊である腕をぶん回し、肘のロケットで加速して大怪獣をぶん殴るとか、大好き。
動物愛護的なイチャモンに対応する理屈も一応備えているあたりは面白い。

しかし3Dは。
初めのカットからクラクラする。
ジョーズ3に戻ってしまっている。

二人並んでいると一人にしかフォーカスが合わず、並んだ絵としては認識できない。
波しぶきを見ると船にフォーカスが合わず見えない。
吹っ飛んでくる自動車を見ると怪獣の姿が見えない。
怪獣の尻尾がムチのように襲ってくる。怪獣本体が見えない。
さらに言えば字幕にフォーカスを合わせると映画全体が見えない(これは3D映画全体に言える事だけど)。
なんだこりゃ?

演出的にカットが多く動きが激しくアングルが目まぐるしく変わるので、それに加えて前後にフォーカスして見るべきものを探すのは非常に骨が折れます。

ロボットの出動シーンでなぜかリフトで下に降りていく。で地上に出る。
何が行われているのかわからなかった。
で、ぶん殴り合いの大雑把な迫力はわかったけど全体が不明な点が多すぎるので2Dで見なおしてしまいました。
なるほどリフトで降りるのは操縦席のある頭部だけで、降下してボディーに合体するんですね。二度もあるシーンなのに2Dで初めてわかった。

大きなオブジェを手前に舐めて、遠くのビルに小さく主人公二人の姿が。
物語的に意味のあるシーンだが、3Dの時は二人の姿には気づかない。フォーカスがボヤけているから気づくはずもないし、そこを注視する動機も無いので気づけない。

さらに言えば構図自体の持つ重力や構図変化による動感は3Dでは諦めていたのだけど、2Dで見たらちゃんと存在していた。

ああ、2Dで見てよくわかった、と思わせてはいけませんね。

本当にこの凄い労力には敬服するけれど、僕はこの映画の3Dは映像表現としては失敗していると思う。

映画は本当に童心に帰ってワクワクでき面白かった。
2Dでなら大合格。さらに吹き替えなら映像に集中できてなお良かっただろう。字幕はハイスピードのやり取りを全く捌けていないしあの親子の酷いオーストラリア訛りも表現していない。

吹き替えでまた見ようかな?酔狂だな。でも酔狂が好きだ。

P.S.
最も演技力があったのは芦田愛菜ちゃんだった。恐ろしい子だ。


[2013-8-11]