森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

『千年女優』を見て


今敏(こんさとし)監督によるアニメ映画『千年女優』。
前から少し気になっていたのですがWOWOWで放映した機会に見てみました。
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引退した往年の名女優千代子がインタビューに答えてその生涯を語って聞かせる、という内容。
平安貴族から宇宙飛行士まで、様々な時代の演技と撮影時の実生活が回想の中で絡まり合い、しかも演目の設定時代と撮影の時代のどちらもが目まぐるしく前後することで極めて複雑な場面転換の連続となっています。
そこの一貫して流れているのが一人の画家に対する想いとその想いを託す鍵。そして戦争。
千代子を生涯見続けてきたインタビュアーの視点がそれらを結びつけています。
しかし、画家の消息も鍵の意味も不明なままです。


作画も動きもギラギラ・ドタバタせず落ち着いた美しさで見ていて心地よいものです。
ストーリーはこの目まぐるしさを計算し尽くしてうまく配置し違和感の無い仕上がりになっています。
極めて精緻によくできていると思います。
時代考証も優れて格調高くアニメに興味のない大人の鑑賞にも耐えるでしょう。

ただ見ながらいくつかの疑問を感じました。
極めて短い画家との交流が彼女に与えたインパクトがよく伝わって来なかったこと。
鍵の意味。
日本の軍国主義を背景に据えた意味。

数日考えましたが、鍵は「青春」や「希望」のメタファーと今は捉えることにしました。
軍国主義については、テーマにしたかったのか、千代子の生涯を困難にするための背景にすぎないのか、よくわからない中途半端な印象です。

一番大きいのは千代子と画家の出会いを観客の心にしっかり刻み込みその想いを共有できるようにしてから数々のプロットを積み重ねてほしいと感じたことです。
役者同士や監督との駆け引きも描かれますが、鍵がそれらの困難を乗り越える力となりさらに想いを強めるというスパイラルが私の中でうまく回って行かないのを感じました。

ただ、結末を知り考えてから少しだけ見なおしてみると、通して見た時にはそこに届かないもどかしさを感じた心が締め付けられる感情が降りてくるのを覚えました。
数年経ってからまた見てみたいと思いました。それだけの何かを持っている映画だと感じるのです。


[2013-8-11]