森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

イリーナ・メジューエワ ピアノリサイタル

イリーナ・メジューエワ ピアノリサイタル

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 半音階的幻想曲とフーガ BWV903

 ピアノ・ソナタ第21番 『ワルトシュタイン』


2013/7/20 みなとみらいホール






今回は初めてステージの後ろP席に陣取りました。
ピアノの反響板の後ろだけどどんな響きが聞こえてくるでしょう。


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結果はあまり芳しいものではありませんでした。
鍵盤の真ん中から左側が見事に混濁して、バッハはもちろんベートーヴェンの様な左手がポリフォニックに激しく動く音楽には全く不向きと言わざるを得ません。音楽全体がくぐもって聞こえ高域も地味に感じられてきます。
バッハの本質であるポリフォニーが明晰に聞こえなければ当然その訴えかけも聞こえて来ません。ベートーヴェンの左手による造形も躍動も感じ取ることができませんでした。
メジューエワの『半音階的幻想曲』は最初の録音から大好きで大変期待していただけに残念です。
ただ重厚な響きではあることからショパンでは良く聞こえる曲もあることに望みをかけます。


そのまた前奏曲のようにあっけないはずの第一曲はいつものメジューエワ通り、前奏曲ではなくメインディッシュのような演奏です。
重厚で濃厚でデミグラスソースのような前奏曲。私は好きです。
最初のCDよりは早いけど二度目のCDよりは重いようです。

第二曲は誰もがする以上に不協和音を重く引きずります。不気味にも程がある。

第三曲は美しい音色も加わって軽やかに舞います。

以後どんどん美音の輝きと沈潜の深さを増していきベートーヴェンの後期ソナタのような重厚な前奏曲を奏でます。深い感動。

残念なのはやはり団子状態の低音で、終曲などはこの曲を知らない人は左手で何をやっているのか理解できないでしょう。しかしそれを知っている私は想像で補って深く激しい慟哭を聞きました。
去年正面後方の席で聞いたときは軽い音だったので、正面前方であったら程よいサウンドであったでしょうか。そうならばCDを遥かに超える演奏だったと思います。


そして重厚な前奏曲を聞いて激情の世界に心を絡めとられ容易には抜け出せまいと思っていたら、アンコールのフランス組曲でその朗らかさと寂しさの淡い均衡の世界にいとも簡単に掬い上げられてしまって、バッハの透明な音楽の強さを改めて感じたのです。
全く美しいアルマンドです。
あまりポリフォニックでないバッハを弾いてくれて感謝の気持です。

[2013-7-23]


ホール内からエントランスを見下ろす
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