森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

名匠プラッソン 東京交響楽団、極上のフレンチ

名匠プラッソン 東京交響楽団 ~ 極上のフレンチ
名曲全集 第88回  2013/7/14 ミューザ川崎
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ヴァイオリン:成田達輝

 牧神の午後への前奏曲
 交響詩「海」

 詩曲
ソロアンコール

 ツィガーヌ

アンコール




実は数日前にチケットを衝動買いしてしまった公演。

私のプラッソンに対する印象は薄くて軽めのサウンドから繊細なニュアンスが香気のように立ち上ってくる、というもの。特にフォーレが大好きなのだけど、ちょっとガッツリ系であるラヴェルは聴いたことがありませんでした。
それは、私が近代フランス物をあまり得意としていないから。紆余曲折を強固に締めくくるカタストロフィー、というドラマ仕立ての音楽にあまりに馴染んでしまったため瞬間瞬間の感覚美を味わうのがじれったく感じてしまうせいかもしれません。

逆に日常の慌ただしさから逃れるためにはそういう音楽が必要なのかもしれない。ベートーヴェンブラームスはお腹いっぱいだ。そんな風に感じてチケットを買ったのかもしれません。
それに復興成ったミューザ川崎も見てみたいという思いもありました。

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さて、『牧神の午後への前奏曲の出だし。あまり曖昧模糊とした感じではなくハッキリとしています。
しかし静まり返ったホールを一本のフルートが森へ変えてしまうというマジックを感じることができました。
各楽器が音色を絡ませ合い大変色彩豊かです。
ハープが音楽に大変な奥行きを与えています。

『海』は色彩もさることながら光線のコントラストがとても明確で、キラキラとした水しぶきが見えてきます。
なるほど初版の表紙になった富嶽三十六景『神奈川沖浪裏』を思い起こすと同時に北斎の方も新鮮によみがえるような気になるのは不思議です。
そしてハープがここでは疾走感を表現していて見事です。

『詩曲』は足元から直接体内に伝わってくるような深く静かな叙情が見事で心が音楽に溶けこみます。

ツィガーヌでは成田達輝君のソロが盛り上がってきた所で弦が切れてしまい一旦袖に引っ込むというハプニングがあったものの、超絶技巧をしっとりと聴かせ心地良い音楽でした。

近頃はソロのアンコールが増えて来ましたね。24のカプリースからNo.1は音量が小さめだった反面、良くある強引でヴァイオリンが可哀想に感じる演奏とは違う好感を感じました。ただもう少し個性を訴えてもいいでしょう。

ボレロはプラッソンらしく、馬力に任せるところのない色彩感極まる演奏でした。
各楽器の魅力を存分に訴えていつまでも聴いていたいという気にさせます。
それでいて終盤の盛り上げは、透明感も色彩感も失わずあらゆる方行に音楽の生命力をふくらませていくようで、これはホールでなければ体験できないだろうし、さらに言えばミューザ川崎ならではの響きだったかもしれません。
まるで美しい生命力をもらったように感じ、ボレロで涙が出てしまうなんて初めての経験です。

そしてアンコールがマ・メール・ロワ
この曲の感興に私の場合乗りきれずに終わってしまうこと屡々なのですが、今日の演奏はとんでもない美しさとその美しさに宿った感性の力強さが物理的な音量とは全く違う次元の深さと伸びやかさのボリュームを獲得して、魂の喜びでホールが満たされました。

これらの感興は会場にいれば皆が共有して幸福感に満たされているのをハッキリ感じることができます。今日ここに来られた人はなんと幸せなんだろう。

80歳のプラッソン御大はもう歩みがノンビリになっているのですがコンマスの横を通るたびに肩に手をかけ、というより寄りかかって行き笑いを誘います。
しかしボレロの後では最奥にいる小太鼓までわざわざ歩いて行き讃えました。
ソロの成田達輝君とハープ奏者と両手つなぎでお辞儀、微笑ましいです。
アンコールが終わっても何度も呼び出されるのでついにコンマスの腕を掴んで連れ去ってしまい終演となりました。
そんな茶目っ気も表れた音楽だったのかもしれません。
まさに極上のフレンチでした。

東京交響楽団も実にすばらしい!
ボレロトロンボーンはやはり鬼門ですか?)


2階席でも底から沸き上がってくるように感じる音響です。バランスは極めて良好。うるさい楽器っも引っ込んだ楽器もありません。
この次はアリーナに行ってみよう。
ここの1階席はステージと同程度の大きさのアリーナになっていて、周囲をオーケストラと共通の壁で囲まれているのでまるで貸切状態に感じられるのです。
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ミューザ川崎の表玄関はあまりオーラがありませんね。
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しかし、夜は綺麗なのです(昨年クリスマスシーズン)
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[2013-7-15]