森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

映画 『カストラート』

映画 『カストラート

監 督: ジェラール・コルビオ
出 演:
 ファリネッリカルロ・ブロスキ)=ステファノ・ディオニジ
 リカルド・ブロスキ=エンリコ・ロ・ヴェルソ
 アレクサンドラ=エルザ・ジルベルシュタイン
製作年:1994年
製作国:フランス イタリア ベルギー


聞いたか?兄さん
イメージ 1
聞こえてるんだろ?
単なる技巧でごまかしてる
装飾音で飾り立ててるだけ
楽曲全体が
詰め込みすぎなんだよ

お前の声に合わせてる

声を忘れなよ

ムリな事は分かってるだろ

音楽を中心に考えて
心に響く旋律を
真実の本質的な感動を書いてくれ
聴き手の中にある
無限のかけらを震わせる
音楽を書いてほしい
それを聞きたいんだ

恩知らずだな



この物語は天才カストラートファリネッリが兄の凡庸と欺瞞と背信から逃れるまでの半生を描いています。

ファリネッリ(カルロ)も兄のリカルドも実在の人物で、リカルドの曲も演奏されています。
実際のファリネッリは裕福な家庭の出で本人も音楽家に珍しく温厚な気質であり、晩年の暮らしぶりも年金で何不自由なく、多くの芸術家の訪問を受けて過ごしたということです。

この映画がどこまでが史実でどこからがフィクションかわかりませんが、「女さえ共有する二人で一人の不思議な関係を続けるカストラートと作曲家の兄」という設定は少々荒唐無稽に思え、男でも女でもないカストラートの悲哀に余分なものを付け加えてスポイルした感があります。
作曲家たちの俗物性があまりに酷すぎマンガチックでさえあるのも興を醒まします。


しかし当時の社会の中で演奏家や作曲家がどのように活動していたかが丹念に描かれていて興味深く見ることができます。

音楽的にはいくつか含蓄のある言葉が語られますが前半は退屈なリカルドの曲が続き物足りなさを感じます。
しかし後半になってファリネッリ待望のヘンデルの曲を歌うことでリカルドの凡庸さとヘンデルの(モーツァルトの影に隠れがちな)非凡さがまざまざと理解できるという仕掛けを楽しむことができました。

物語としては奇妙でも、映画の世界へトリップする楽しさはたっぷりと味わえました。


[2013-5-3]