森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

ミラノ・スカラ座の 『ローエングリン』

ミラノ・スカラ座2012/13シーズン開幕公演
演 出:クラウス・グート
合 唱:ミラノ・スカラ座管合唱団
出 演:
 国王ハインリヒ = ルネ・パーペ
 エルザ = アンネッテ・ダッシュ
 テルラムント = トマス・トマソン
 オルトルート = エヴェリン・ヘルリツィウス
(NHKの放送を録画視聴)
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シーズン開幕の大切な公演にもかかわらずエルザ役のアニア・ハルデロスがインフルエンザでダウンしたばかりか代役まで出演できなくなり、前年にバイロイトで歌ったアンネッテ・ダッシュが急遽呼ばれました。
ミラノへの到着が本番二日前の夜。リハーサルは前日の1日のみという信じられない状況で迎えた開幕公演です。

この前奏曲バレンボイムの繊細な面が美しく発揮された演奏です。
ワーグナーの厚かましい誇大妄想家というイメージと全く逆の繊細優美な感性が紡ぎこまれたこの曲の魅力を遺憾なく表出しています。

ミラノ・スカラ座管弦楽団は儚さよりも優美さを良く表しています。
金管は厚みより華麗さを感じます。
それがローエングリンにはとても合っているのではないかと思うのです。

白鳥の騎士の物語はお馴染みのオルフェオとか鶴の恩返しみたいなものですが、そのお伽話に大人を3時間半も惹きつけておくにはストーリー以外の説得力が不可欠です。
私個人としてはワーグナー自身によるこの台本では疑念が高まっていくエルザの心理がうまく描けているとは感じられないのですが、音楽にはそれが完璧に表されています。
言葉は多弁ですが演説的な自己主張がぶつかり合うが絡み合わず、一方音楽は同様に多弁でありながら様々な主張や情念が絡んだりほどけたり融け合ったりして、しかもいつでも心地良い。ワーグナーも紛れもない天才作曲家の一人です。

ヨナス・カウフマンは正直いってあまり好みのテノールではないのですが、ローエングリンではやや重みのある声質が気高さや強さを表し、泣きが入る歌唱法がちょっとだけ弱っちくて状況をコントロールしきれない様をよく表現しています。
音楽の持つ説得力を指揮・オーケストラとともによく納得させてくれる優れたローエングリンだと感じます。
終盤、"Mein lieber Schwan" と歌い出した瞬間、震えが来るのを覚えました。

3時間半はまったく間延びを感じませんでした。

ルネ・パーペとトマス・トマソンは曲と声域が合っていない様な、いつもの力強い歌唱があまり聞かれない印象でした。
アンネッテ・ダッシュは可も不可もないという印象ですが、たった1日のリハーサルでよくもそのレベルまで演じたと言えるでしょう。


[2013-4-20]