森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

フリッツ・ラングの『ニーベルンゲン』

ニーベルンゲン
第1部「ジークフリートの死」
第2部「クリムヒルトの復讐」

脚本:テア・フォン・ハルボウ
出演: パウル・リヒター, マルガレーテ・シェーン
弁士:沢登
(WOWOWの放送を録画視聴)

イメージ 1
(ブリュンヒルトを騙すことで結ばれたジークフリートとクリームヒルト)

1924年制作の無声映画の大作です。
ワーグナーの『リング』の原作でもある大叙事詩ニーベルンゲンの歌』を大きな流れは崩さずに細部を脚色して映画化しています。
ちなみに脚本のハルボウはラングの夫人です。

無傷のフィルムは残っておらず、今回のハイビジョンリマスターには複数のネガとプリントを使用して白黒のプリントを起こしてから現存のプリントを参考に彩色処理をしたそうです。
デジタル処理も施され擦り傷やホコリのない綺麗な映像に仕上がっています。

前半がジークフリートの活躍から死までとグンターのブリュンヒルト求婚の顛末、後半がもっぱらクリームヒルトによるハーゲンへの復讐が描かれています。
これもほぼ原作叙事詩と同じ構成です。
イメージ 2
(凡庸なグンターを軽蔑し高圧的に接するブリュンヒルト)

叙事詩で大作ということを意識してか、または時代的なものか、情感は大雑把に表現されあまり感情移入を誘うものではありません。
モラルも美意識も異なる異世界のお伽話を見ている感覚はワーグナーのオペラと同様です。
しかしそのダイナミズムはとうてい舞台で表現できるようなものではなく、『ベン・ハー』や『風と共に去りぬ』などのハリウッド大作を先取りするような凄みを持っています。
特に終板のブルグントとフン族の戦いは凄まじく、業火に包まれるアッチラの宮殿は圧巻です。
イメージ 3
(クリームヒルトはハーゲンと兄たちが籠城したアッチラの宮殿に火を放つ)

私は高校生の頃から部屋に『メトロポリス』の摩天楼のポスター(巨大ビルの下に高速道路が走り、周囲をプロペラ機が飛び回っているヤツです)を張って憧れていたのですが実は未見。いくつかの作品を見ようとしたものの地味な映像に挫折し、これがラングの初鑑賞となりました。
驚嘆するばかりで退屈することはありませんでした。

映画の歴史を知るためにも、ドイツの叙事詩ワーグナーを知るためにも、必見の映画であると思います。


沢登翠さんの活弁は失礼ながら美術展や歌舞伎のヘッドホンガイドのような役割は果たしても、作品を作品として味わうには不要と感じます。
なにしろ、活弁は日本独自の話芸の一分野のようなものですから、ニーベルンゲンにふさわしいとは私には思われませんでした。


[2013-3-26]