森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

スロヴァキア室内オーケストラ & 錦織健

スロヴァキア室内オーケストラ & 錦織健
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2013年1月12日 東京オペラシティ コンサートホール


以前は『スロヴァキア室内合奏団』と紹介されていました。『Slovak Chamber Orchestra』です。
スロヴァキア室内オーケストラはボフダン・ヴァルハル(bohdan warchal)氏が音楽監督として1960年に創立しました。
チェコ語WIKIPEDIAによればヴァルハル氏は2000年12月30日に死去し2001年からエヴァルト・ダネル氏が音楽監督を引き継いでいます。
ダネル氏は日本の音大で客員教授をしたり広島交響楽団コンマスや主席客員指揮者を務めていたりする知日派でもあります。


私がスロヴァキア室内オーケストラを初めて聴いたときはヴァルハル(bohdan warchal)氏が率いていて、FM放送やLPレコードでその演奏を聴くと活き活きして喜びに満ちた演奏が大変魅力的な合奏団でした。

実際の演奏に接するとその印象はさらに強まり、ヴァルハル氏の弓を指揮棒に・・と言うよりは体全体を指揮棒にして、かがんだり伸び上がったりして合奏団をリードしていく様はエネルギッシュでありながら力みは一切なく、演奏が楽しくて楽しくて仕方ないという、見ている方も走って行って参加したくなるような演奏ぶりだったのです。

ビクター音楽産業から10枚のLPをリリースしてからは評判を聞くことが無く(私が見落としていただけかもしれませんが)、時々ネットで検索しても有意な情報が得られない状態でした。
今回たまたま公演情報が目に入って、無条件でチケットを購入してしまいました。


さて、久しぶりに聴く彼らの演奏。指揮者が変わり、メンバーも当然相当の入れ替えがあったでしょう。
しかし演奏の資質は引き継がれていて、厚みと温かみのある音色で自由闊達にグイグイと進んでいく演奏は本当に気持ちのいいものです。

ヴィヴァルディの四季にピアソラの『ブエノスアイレスの四季』を織り込むという変わったプログラムは私には余計なものに思えましたが、ともあれ彼らの四季を全曲聴くことができたのは大きな喜びです。
ピアソラのあの異様なまでにシャープなリズムと急峻な抑揚は暖かく緩和されていましたが、弦楽合奏様に編曲されたそれはヤナーチェク程度にモダンなクラシックの楽曲に聴こえなくもない姿になってて興味深く聞くことができました。

ヴァヴァルディの部分は当然モダン楽器の豊穣なサウンドですが、さらにこの合奏団の特質で音が加熱しているという懐かしく嬉しい音楽です。
私にはこれのどこが悪いのかさっぱりわかりません。
バロック以前の音楽に「こうあらねば」と枠をはめることの方がおかしいと思うのですが。


後半は錦織健さんが登場してヘンデルなどを歌いました。
錦織健さんが登場すると「きゃあ」とか「ほわぁ」とかいう女性の声があちこちから聞こえてきて、この日の変わった雰囲気の原因がようやくわかりました。

なるほど類まれな美しい高声を持っているけど、そこへジャンプするための助走が必要なようで、私には居心地の良い歌唱とは感じられませんでした。
(ああ、たくさんの女性を敵に回したかな・・)

伴奏に回ってちょっと保守的になったスロヴァキア室内オーケストラは安定して聴きやすくいっそう愛着を感じるサウンドを奏でていました。


全体的にはヴァルハル氏の時の躍動感は失われたように感じられ残念でしたが、もう少し幅広いレパートリーを聴いてみたいと思わせる内容でした。


[2013-1-12]