森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

蝋燭の灯りによる能・狂言

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<月間特集・古事記千三百年にちなんで>
◎蝋燭の灯りによる

狂言 因幡堂(いなばどう)
 シテ:山本則俊(大蔵流
 アド:山本則重

能   三輪(みわ)
 シテ:本田光洋(金春流
 ワキ:高安勝


2012年10月25日 国立能楽堂













久しぶりにお能を見て来ました。
古事記千三百年にちなんで」という月間特集の最後の公演です。
しかも蝋燭の灯で演じるという趣向で期待大です。

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千駄ヶ谷国立能楽堂正面玄関。

何を隠そう私が生まれた代々木病院の真裏というゆかりの地
(^_^;)



能楽堂の食堂でお弁当をいただいてから座席へ向かうとろうそくの準備をしています。
百目蝋燭の後ろ(客席側)に白い紙を立てて舞台が照らされるようになっています。
正面右側と左側に五本ずつ。脇と橋掛りにもあり、かなりの明るさです。

私の席は正面後方だったのですが炎が少し覗いて見えてしまい逆光で目が眩みみあまり細かいところがわからないのと、やや涼しい程度に空調が効いて風が流れるのでまるで野外にいるような幻想的な気分になります。

薄暗さに覚悟と期待を持って行ったのですが明るさは充分、しかし逆光で演者の表情が読み取れないのではと心配になりましたが始まってみたらしっかり照明を使用していました。
ただし蝋燭の効果が充分得られるようかなり抑えられていて、ちらちらと瞬く光の中で終始幽玄な雰囲気が醸し出されていました。

よくある電灯式のイミテーションの薪で行う薪能とは全く違って心に染み入ってきます。


因幡堂』は大酒飲みで怠け者の妻に離縁状を出した夫が逆襲に遭う話。
「このあたりに住まいいたす者でござる」から「ゆるしてくれゆるしてくれ。やるまいぞやるまいぞ。」まで、黄金のパターンのコメディです。

どう考えても妻に非があり夫が哀れで気の毒なのですが、妻が郷里に帰ったところを見計らってここぞとばかりに離縁状を送りつけたのが唯一の敗因でしょうか。

山本則俊さんは大変な美声でロドルフォを歌わせてみたいほど。
張りと勢いがあって大いに盛り上げてくれます。

山本則重さんの「腹たちや、腹たちや」には大笑いしました。



『三輪』は玄賓僧都(げんぴんそうづ)のもとに衆生を救うために俗世に降りていた三輪山の神(女神)が訪れ、俗世の情を知ってしまったためその罪を清めて欲しいと願い出る、というようなお話。
その女神は天照大御神と同じという。
それで天の岩戸開きの際のアメノウズメノミコトの踊りなどに因んだ神楽を舞います。

シテは女神、玄賓僧都がワキです。

玄賓僧都役の高安勝久さんの深く優しく枯れた声が大変魅力的です。

シテの本田光洋さんは登場時には気品の中に苦渋の表情が見えるようでしたが、話が進むにつれ決然とした表情に変わっていくように見えるのが素晴らしく、顔と動作が全体で心情を表すということが良く理解できました。

しかし特にすごかったのは終盤の舞です。

舞も囃子も徐々に精気が漲っていき、力に溢れ、せせらぎが雄渾な大河になる様を見ているようで、見ているこちらも背筋に力が入り心拍が上がり、終わった時には疲労感に襲われました。
ゆっくりで動線の小さな動きでありながら表現される生命力はさながらベジャールボレロです。

一緒に行った母も興奮していました。

それでも後席には退屈した様子の方々がいましたが私も能を見始めた当初はそうでした。
今ではこのように感興を味わえるようになりまた久々に来てこんなに素晴らしい舞台を見ることができて大変幸せでした。



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開場前、近くのカフェで時間つぶし。

チビッコいデミタスのエスプレッソと「安納芋のモンブラン

全然甘くない(-_-;)

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都心でもこんなに綺麗な月を見ることができます。



[2012-10-28]