森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

スーパー歌舞伎 『ヤマトタケル』


帝 = 市川段四郎(4代目)

1995年4月 新橋演舞場
NHKの放送を録画視聴


スーパー歌舞伎の第一作ですね。
亀治郎猿之助襲名にあやかってNHKで再放送したものです。

すごい数の役者と現代的な舞台装置で豪華。テンポの早いセリフが歌舞伎のテイストの上にわかりやすいドラマを作っていきます。

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古事記を題材とした舞台ものとしては黛敏郎のオペラ『古事記』の放送を見たのですが、比べればスーパー歌舞伎ははるかにエンターテイメントとして豊かで完成されています。
歌舞伎のセリフ回しは極めて音楽的なので、オペラのように旋律がついていなくても流麗な言葉のリズムや緩急が心地よく気持ちを載せて運んでくれます。

帝を慕うヤマトタケルの一方通行の想いを中心に妻たちや側近との情の交わし合いを濃厚に表現しています。
精神的には神秘的で厳かな古代神話というより完全に歌舞伎の人情の世界のもので、歌舞伎として違和感がありません。
演劇としても神話独特の破綻を脚色でカバーしていて安心して見られるものです。

山焼きや海難のシーンをどう処理するのだろうと楽しみにしていたのですが、無理のない工夫でイマジネーションを喚起する表現には「なるほど」と感心しました。
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(草薙の剣を振るうシーン)

ただ私としては演出や演技にもっと歌舞伎の荒事の『型』を使って美学を表現して欲しかったと感じました。
セリフも現代風のものと歌舞伎流が混在していますが、核心は歌舞伎で引き締めて欲しいと感じました。
台本はやはり古典のように練り込まれこなれた物ではないと感じたのです。

随分前の公演ですから、つい先ごろの襲名披露公演も記録があったら見てみたいものです。


[2012-9-12]