ミュージカル 『GOLD~カミーユとロダン~』
作 曲:フランク・ワイルドホーン
脚 本:ナン・ナイトン
演 出:白井晃
出演:
父=西岡徳馬
母=根岸季衣
弟ポール=伊礼彼方
2011年 シアタークリエ
(NHKの放送を録画視聴)
2003年にアメリカで初演された比較的新しい作品のようです。
ロダンとカミーユ・クローデルのエピソードは美術ファンならば誰もが知るところです。
78歳で亡くなるまでの30年間を精神病院で過ごし才能を枯死させました。
私はミュージカルには映画でしか接したことがなく、舞台ミュージカルには全く無知です。
正直言うと日本のミュージカルでよく聞かれるビブラートを最小限にして地声を張り上げる歌い方が少々苦手です。
この舞台でもそういう発声が行われていました。
しかし新妻聖子さんの歌唱にはすっかり圧倒されてしまいました。
新妻さんは硬軟取り混ぜた発声と正確な音程を土台に柔軟で自在な節回しを繰り広げています。
翻訳でだいぶ字余りとなってしまい無理やり音符に字句を詰め込んだような歌詞もやはり苦手なのですが、新妻さんの完璧に意志と感情の乗った歌唱はてにをはもイントネーションも、旋律の中で活き活きとしています。
私の思うカミーユよりもだいぶ日本的庶民の雰囲気が前に出て、ところどころ江戸長屋のおばさんみたいなガサツな喋り方もあって、ヨーロッパ的な立ち居振る舞いは感じられませんが、私のオペラの見過ぎかもしれません。このほうが情感が近くに感じられて良いのでしょう。
「世間の無理解」というテーマは私にはとても心理的に重くのしかかってきて時に見るのを中断するほど辛いのですが、今回は新妻さんの演技に吸い込まれて目を離すことはできませんでした。
精神が崩壊していく様は圧巻ですし、最後の
母ルイーズ役の根岸季衣さんは保守的な母を厳しく演じました。憎まれ役としての力量をまざまざと見ることができます。
弟ポールの伊礼彼方さんも気楽な若者から気難しいクリスチャンの外交官への変化を巧みに演じていました。
舞台美術も衣装も素晴らしかったのですが、私が一つ残念に感じたのは音楽です。
オペラばかり見ているし、ミュージカルといっても『オペラ座の怪人』『コーラスライン』『ウェスト・サイド・ストーリー』みたいな重厚な作品ばかり見てきたからか、楽器構成が小規模という事もあるけど、どうも演奏に魂が入っていないというか、情景や情感の背景を描写する力が十分でないように感じられてしまいました。
それでもこの素晴らしい舞台を見に行きたかったという思いが尽きることはありません。
[2012-8-18]