森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

シェーンベルク 歌劇 『今日から明日まで』

シェーンベルク 『今日から明日まで』

演 出:アンドレアス・ホモキ
合 唱:フェニーチェ劇場合唱団
出 演
 夫=ゲオルク・ニール
 妻=ブリギッテ・ゲラー


モンテヴェルディの『オルフェオ』でタイトルロールを演じていたゲオルク・ニールがどうしようもない~普通の~夫を演じます。

イメージ 1
パーティーで女優に言い寄られていい気強気になっている夫を妻がコテンパンにやっつけます。

夫婦の愛は失われておらず、夫は根本的には善良な男なのでた易く妻のペースに嵌ってしまい、やっつけられて平和な気持ちを取り戻すという犬も喰わぬ話です。








主演の二人は帰宅直後の会話からして堂に入っていて巧みです。

ドイツ語で交わされる夫の邪険な言葉と妻のなじり声。
日本語の同じ会話がありありと浮かぶようです。

ゲオルク・ニールはモンテヴェルディの古典劇と打って変わったこの舞台を、非常に近い印象と非常に異なった印象の両面を持って演じていました。

歌う時の表情や伸び上がるクセはそのままで戸惑うほどですが、声質は全く異なっていてモンテヴェルディでの柔らかく太めの声はところどころ伺える程度で、全体には苛立ちや戸惑いなどのネガティブで多層的な心情描写に徹したドイツらしい歌唱です。
ディースカウがコメディを演じた時の感覚を思い起こしました。
きっと知性のコントロールが効いた歌手なのでしょう。

ブリギッテ・ゲラーは「静かに怒った“奥さん”」の迫力を男から見ると恐ろしげに醸し出していて秀逸。
声質がエキセントリックでないのが良く、そうでなければ聴き通すのが辛くなることでしょう。


シェーンベルクの音楽は12音音楽ととはいえ巧みな情景描写で違和感ありません。
今時では娯楽映画でも擬音を表現する音楽で現れる程度です。
ただ心地良い旋律という物がないので、演劇的な感興を持って見ました。

演劇よりも言い回し単純化し音階をつけることで感情の幅を増幅したセリフで、より直截的に人間やストーーリーの核心を突きつけてくるとも感じられました。


舞台背景は一面に"MODERN"と書かれた包み紙のようなもので覆われています。
最後に子供の「現代的ってなあに?」という問に笑いで答えて、その壁紙を一瞥し舞台に置き去りにするように去って行きます。

個人主義の行き過ぎと人の絆を一過性のものにしてしまうライフスタイルを『現代的』という言葉で揶揄した内容でした。

だれしもが時々思い出さなければならないテーマです。


[2012-7-8]