森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

グダグダが楽しい 映画『スカイライン-征服-』

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原題:SKYLINE
監督:グレッグ&コリン・ストラウス

2010年 アメリ





WOWOWで視聴)



~空をUFOが埋め尽くす~ という文句につられてつい見てしまった無名映画。

普段なら「やれやれ」とスルーしてしまう様な映画なのだけど、何となく覚えておきたいという思いに駆られ書き留めます。

気になってネットをあたってみるとやはり、多数の怒りの書き込みを発見しました。
この映画に対する罵詈雑言の限りを見るにつけ、「ああ、そうだろうなあ」と思いつつもなにか突き放せないものを感じる。なんだろう。

ネタバレ有ります。
でも、それがどうした、って感じの映画ではあります。



ある日圧倒的なパワーを持った宇宙船団が飛来し、自動車も一踏みの巨大なエイリアンも降下して来て街を襲います。
おまけに敵の怪光線を浴びた人間はゾンビ状態に変身し、自ら敵に身を投じて行きます。

CG、凄いですよ。
日本の超大作よりずっと良く出来てます。

なのにあまりに欲張り過ぎてわけがわからなくなるB級映画の典型です。

どんなにたくさん詰まったおもちゃ箱があっても、遊ぶときは一つか二つのおもちゃですよね?乗り物と人形とか。ヒーローと敵とか。
でも裕福なお坊ちゃんの家で、次々と持ち物を紹介されて結局「すごいね」「いいなあ」「ふーん」と言わされているうちに遊んだ気分になることもなく終わって帰る、って経験がありませんか?

そんな映画ですね。

開始20分はホラー映画。
登場人物の紹介で、コイツとコイツは瞬殺。コイツはヒーロー的にやられる。コイツが生き残り組だなあ。なんてね。

それでB級ホラーらしく、全員死んでもいいやって感じのヤツばっかり。
早く筋書き始まれ、と苛立つ。

かなり辛抱強いぼくの苛立ちが煮詰まり吹きこぼれかける頃、前触れもなく宇宙戦争に突入。
街を覆うような巨大UFOがたくさん飛来。どんどん街が破壊される。いや、されてない。埃っぽくなってるだけか?

怪光線を見た人間(浴びるだけなら大丈夫!)はゾンビメイクになって、敵の手に向かって行ってしまう。

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UFOの下の煙に見えたものは実は無数の人間が吸い上げられているところなのだ!!

ビュンビュン吸い込まれていく。ロータリー式か?

これは、あのズバコーンで一世を風靡したフォーガットンが念頭ある事は間違いない。








またUFOから出てくる敵戦闘機とアメリカ空軍機の戦いは『インディペンデンスデイ』だ。

部屋の中に侵入してくる触手のような宇宙人に身を潜めて最後は斧で叩き落とすのは宇宙戦争の初回映画化版。

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巨体で車を踏み潰し俊足で走り回るエイリアンはハリウッド版ゴジラ

人間を食べるので一応生物であるらしい。





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そいつがビルを登って来て、空軍機に打たれるのはキングコング

ヤラレ役の英雄的行為で火だるまになるのだが、備長炭のようにしぶとく個体燃焼しながら登ってきます。

絵的には極めてよく出来ていますね。

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(これはもういかんねえ)
(そうだねえ。ダメだねえ。)

エイリアンは地球人を捕らえては脳髄を吸い取って身体は捨ててしまう。スターシップ・トゥルーパーズか?

ただ、その脳髄はどうやら自分らの脳髄として再利用されているようだ。
どうやら機械や人工的な生体組織の組み合わせで出来ているらしく、きっと脳神経系を新鮮に保つことができないのであろう。

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唐突に「三日目・・・」

こんなふうになってます、という感じの描写で始まります。

やられてしまった地球の描写に自由の女神像猿の惑星以来の定番ですね。



それでもって生き残り組だと思われたカレシが泥人形みたいなエイリアンに捕まって脳髄を奪われてしまうのだけど、その脳を装着した泥エイリアンが苦しみ出す。
宇津木涼を喰った魔王ダンテのように。

その時一緒に捕まったカノジョも襲われるのだが、頭をくわえ込まれ今まさに脳を吸われようとする彼女を目にしたソイツは彼女に食いついたエイリアンをブッ飛ばし、周りの泥エイリアンたちを撲殺し始める。
そう、カレシの脳は泥エイリアンの身体を乗っ取ったのだ。なんで?
(怪光線を何度かチョイ浴びして肉体強化ゾンビになっている、という伏線あり)

周りに集結する泥エイリアンに対峙し、カノジョを守ろうとする泥エイリアンカレシ。
カノジョもそれがカレシのなれの果てであることを悟り身を寄せる。

さあ、泥エイリアンカレシとしての言い分は後で考えるとして、ここは闘いまくってカノジョを救い出すんだ!!

と、突如エンディングロール。映画終了。

「えっ?」



圧倒的な力を持った敵に無力な人類がどう闘うか。その答えはH・G・ウェルズ宇宙戦争』(The War of the Worlds)で100年以上前に出しています。


原作と映画版第一作では「人類が完敗した敵に、神の知恵が地上に創造した最も慎ましやかな存在が打ち勝ったのだ」(slain after all man's devices had failed, by the humblest things that God, in his wisdom, has put upon this earth.)と語られます。

宇宙戦争の翻案である『インディペンデンスデイ』ではバクテリアがコンピュターウィルスに置き換えられています。(現代的で良いアイデアだ)

それで、「この映画ではその慎ましやかな勝者は何になるのだろう」と始めから『宇宙戦争』のオマージュだと(ぼくはこの映画をパクリとは呼ばない)分かっていたので考えていました。

ところがイケてないカレシがデビルマンみたいにエイリアンを乗っ取ったところでオシマイ。
コイツは勝つのか負けるのか?カノジョの運命は?

うーん。
2001年宇宙の旅』みたいに謎を残して終わるつもりか?ただの思わせぶりか?
観客を突き放すことで激しいB級っぷりをアピールしているのだろうか?

いや。
この記事を書いている最中に気付きました。

地球は負けてはいない



地球人自身が宇宙戦争バクテリアみたいに、『インディペンデンスデイ』のコンピュターウィルスのように、デビルマン不動明よろしく、エイリアンの身体に入り込んで打ち負かすのだ。

そしてデビルマンのラストの様に原生人類が滅びた後、侵略エイリアン対「人類エイリアン」の最終決戦が行われる。

デビルマンと決定的に違うのは人類エイリアン側が勝利を収め、海岸で胴体ちぎれているのは侵略エイリアンであろうという点だ。

きっと壮大過ぎてB旧映画の範疇を超えてしまったので、後は観客のイマジネーションに任せて突如のエンディングとしたのでしょう。

ハイバジェットの企画としては勝者がドロドロのエイリアン化した人類というのはあまりに滑稽すぎますし。
いっそエンディングはアイ・アム・レジェンドにしてしまいますか?

それからこのプロデューサーか監督、コミック版の『GANTZ』を見てないかなあ?



いやあ、CGはそれなりに見応えったし、謎は解けたし、良い映画だった。
右往左往するだけの男どもと悲鳴上げてるだけの女どもと、顔が映らない兵士しか出てこないチープな内容だけど、なんかこう、随所に映画が好きなちょっと素人、ちょっとプロみたいな中途半端なひたむきさが感じられて、ぼくはそういう姿勢にほだされてしまうのです。

この映画で迷惑を被った方々には「少し肩の力を抜いてグダグダな凄さを楽しもうよ」と言いたい。

またこの様な映画でこれだけのビジュアルを詰め込めるアメリカ映画の凄さにも感嘆の念を禁じえません。


[2012-5-6]