森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

ネトレプコの 『清教徒』


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演 出:サンドロ・セキ 
指 揮:パトリック・サマーズ
出 演:
 エフヴィーラ= アンナ・ネトレプコ
 アルトゥーロ=エリック・カトラー
 リッカルドフランコ・ヴァッサルロ
 ジョルジョ=ジョン・リライア
 エンリケッタ=マリア・ジフチャク



清教徒革命と呼ばれるイングランドの国王と議会の対立=内戦を背景としています。

ヒロインのエルヴィーラは議会派であり、同じく議会派のリッカルドと婚約しています。
しかし実は国王派のアルトゥーロと愛しあっており、公明正大で思いやりの深い叔父のはからいでアルトゥーロと結婚することになります。

ここから先はいつもの黄金のワンパターンで悲劇が展開していきます。

ワンパターンでないのはハッピーエンドであること。

『狂乱の場』と呼ばれる悲劇的なシーンを経て皆がハッピーな気分で幕を閉じるのはオペラでは珍しいものです。
ベッリーニ33歳にして最後のオペラとなってしまいましたが、作曲家本人はまだまだ長い人生を希望に満ちた想いで展望していたのでしょうか。


さて歌手が「ベッリーニには声楽を習って欲しかった」と指摘する通りソプラノにもテノールにも非常に厳しいこの作品ですが、ネトレプコに始まってネトレプコに終わる、ネトレプコのためのオペラのような公演になっていました。

アルトゥーロ役のエリック・カトラーは『ラ・ボエーム』なら鼻歌のように歌ってしまうだろうと思う程よく声が出るしベルカントとしては美しいのだろうけど、何となく芯に魂の入っていないような声で、心理描写としても、歌のスリルとしてもいま一つ伝わってくるものが薄味な印象でした。

ジョルジョ役のジョン・リライアが深くて重い良い声なのだけど、役柄として扱いが軽いのが残念なところです。


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そしてネトレプコ

貴族の子女を演じるときはドカドカ大股で歩きドレスをバッサバッサと羽ばかせるのをやめてもらいたいと、いつも思うのです。

歌い方も、緩急抑揚に考えて表情をつけたようには聞こえず、みんな暖かく元気ハツラツに聴こえてしまうのです。


しかし、どんな姿勢でも、どんな動作中でも、どんな高音でも、痩せたり太ったりせず聞きやすい声のままで完全に出しきってしまうその能力には脱帽するしかありません。

仰向けどころか、ステージの端でのけ反って『狂乱の場』の超難度の歌唱を続けます。




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だからこの公演はネトレプコのために企画されてように感じられてしまうのです。



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そんな歌と演技をしながら幕間のインタビューではこの余裕。


一つ気になったのが音響で、ステージに定在波がある上にステージとバックステージの二重の反響が立ち位置と向きによって入れ替わり非常に落ち着きのない苛立つような気持ちにさせられました。

そして低音と高音が強調された痩せた響きで、テノールが薄く聴こえたのはこの影響が大きいと思います。

オペラでは時にこういうことがあります。
むずかしいですね。

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[2012-4-22]