森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

ミラノ・スカラ座の《ラインの黄金》


演 出:ギー・カシアス
出 演:
 ヴォータン=ルネ・パーペ
 アルベリヒ=ヨハネス・マルティン・クレンツレ
 ローゲ=シュテファン・リューガマー
 ファゾルト=ヨン・クワンチュル
 ファフナー=ティモ・リーホネン
 フリッカ=ドリス・ゾッフェル
 エルダ=アンナ・ラーション

2010年5月26日 ミラノ・スカラ座
NHKの放送を録画視聴)

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スカラ座の主席にバレンボイムが陣取っていて《リング》というのも妙な気がするけど、バイエルンでイタリア人がプッチーニをやればイタリアでワーグナーを演っても何もおかしいことは無いのでしょう。
しかしつとに聞く辛辣なスカラ座の観客や団員たち、ムーティが追放されたのも記憶に新しく、これをどう捉えているのかやや心配になります。

私はバレンボイムのリングはバイロイトの記録を二年ほど前に一気見し、つい先日見たレヴァインのメト・ライブビューイングも記憶に新しく、先入観なしに見るのがやや難しい状態です。

演奏はなるほどバレンボイムの音楽作りだなと、すぐに気持ちの置きどころが見つかるようなものです。
しかしやはりスカラ座のオーケストラは弦のツヤの出し方や金管のタメがドイツとは違う感じもします。
スカラ座のはバレンボイムの指揮には慣れているはずですが、バレンボイムの色に染まりきっていないのはむしろ嬉しいところです。


演出は非常に美麗で、バイロイトやメトのようなすごい仕掛けはなくとも簡素な印象は全くありません。

床一面がごく浅いプールと通路で出来ており、ラインの乙女たちはバシャバシャと水を跳ね上げながら歌います。
フライアのスカートは水を浴びて黒く変色してしまうし、最後はローゲも水遊びをして意味不明。彼の火は大丈夫?

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レダンサーが常に舞台上で踊っており、人物の内面や状況を補足しています。
時には小道具役を果たし、黄金の隠れ頭巾を人柱で表現したのはうまい演出でした。

またスクリーンに投影したシルエットが舞台とは違った演技で補足説明をしており、巨人は巨大なシルエットになっているなどもうまい工夫です。

歌手の演技とダンサーの表現とシルエットや顔の投影と、三重の表現が説明調ではあるけどあまり煩わしくはなく、うまく作用していました。






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ルネ・パーペはさすがです。
リングの中でもこの《ラインの黄金》でのヴォータンはグダグダながらも威厳を保とうとし続けるので、ルネ・パーペの深い最低音と伸びのある響きはよく合っています。

ヴォータンが唯一恐れる妻フリッカ役のドリス・ゾッフェルは気品に溢れているのですがやや軽い声と歌唱で、ヴォータンに対するプレッシャーが不足気味に感じられました。





私は神々を脅かす程の力を持ったアルベリヒがあまりに下品でケチ臭い小物なのがいつも違和感があったのですが、ヨハネス・マルティン・クレンツレは演技にも歌にもある程度品位を備えていて好感が持てました。

他のキャストたちは満遍なく及第点でした。
特にヨン・クワンチュルは小さい身体ながらも重厚さを感じる上手い歌手です。次は彼のハーゲンを観てみたいですね。


全体的に言って私はあまりにカラフルな舞台と重厚な音楽の対比が、心の中で整理できない印象を受けてしまったのですが、カーテンコールでの拍手を聞けばスカラ座の聴衆は熱狂的に受け入れたようで、始めの心配は杞憂に終わったようです。


[2012-4-4]