森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

ショルティの 《魔笛》 ~ ザルツブルク音楽祭1991


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出 演:
 ザラストロ=ルネ・パーペ
 タミーノ=デオン・ファン・デア・ヴァルト
 夜の女王=ルチアーナ・セーラ
 パミーナ=ルース・ツィーサク
 パパゲーノ=アントン・シャリンガー
 パパゲーナ=エディット・シュミット・リーンバッハー
 モノスタートス=ハインツ・ツェドニク
 三人の少年=テルツ少年合唱団員
合 唱:ウィーン国立歌劇場合唱団
指 揮:ゲオルク・ショルティ
演 出:ヨハネス・シャーフ

1991年8月8日 ザルツブルク祝祭大劇場


ショルティの個性が全面に出た《魔笛》という印象です。

冒頭3人の侍女のアリアはピタリと揃って美しいし、パパゲーノも律儀な歌いっぷり。

ウィーン・フィルがタイトでソリッドな響きをしているのもショルティならではでしょう。
そういえば1994年サントリーホールでのショルティウィーン・フィルの演奏会も全く豊穣さのない、しかし筋金の入った硬質な美しさを聴かせてくれたものです。


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この《魔笛》では特に女声が声域にかかわらず均質な声質を出していて、器楽的な安定感は相当なものです。

パミーナも夜の女王も同じように細身で安定した『声』、というより『音』作りをしています。











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ルネ・パーペは明るめの朗々たる声で魅力的です。

さすがに当たり役だけあって、ザラストロの威圧感と公明正大さとをただの立ち姿で表現できています。

面立ちは繊細さと強さを持っているのでザラストロにピッタリですが、ちょっと丸顔でカワイイのが玉にキズ。

メイクと髪型でどうにでもなると思うのですが。




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タミーノのデオン・ファン・デア・ヴァルトは、美しい声という形容がまず思い浮かびます。

柔らかくて正確で知的で繊細な感情表現力もあって、大変モーツァルトに相応しいテノールです。











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パパゲーノのアントン・シャリンガーはどことなくプライが思い返される雰囲気を持っています。
歌も声も少しプライの面影があるように感じてしまいます。











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それにしても老婆姿からまさに脱皮したパパゲーナの健康美にはパパゲーノよりこちらがドッキリしてしまいます。












ここで、ドキッ!

もっと田舎くさい娘が出てくると思ってたので。

鳥刺しの出で立ちなのに、ずいぶんと都会的な美人です。

パミーナと同じ系統の、細いけど安定した声で、モーツァルトの旋律線と動感をよく表現しています。


《パ・パ・パ》もまあ、そこそこ。


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三人の少年はテルツ少年合唱団の子供たちですが、声量が豊かな上にボーイソプラノによく感じる上ずる感じもなく大人たちの声とオーケストラに溶け込んでいます。

もちらん、テルツ少年合唱団らしい透明で輝かしい声で、私が聴いた魔笛の中では最高の三人でした。







演出は非常にまっとうで、舞台装置も書割が入れ替わるぐらいでシンプルです。


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全体にショルティの堅実さが支配していて、歌手もオーケストラも遊び心をしまい込んでしまった印象です。

グロッケンシュピールを演奏するショルティは、全身を使った激奏なのですが・・・

音楽的、構築的な充実感は十分なのですが、コミカルなジンクシュピールとしてはもう少し伸びやかに、時にはハメを外したり即興的であったりして欲しいとも感じられるのです。


実際にそれを観てきたという三枝成彰氏によれば、《魔笛》のフルバージョンは8時間もかかる気の遠くなるような大作だそうです。
しかも音楽と歌は滅多にでてこないのだそう。
面白く演じなきゃ身が持ちませんね。


[2011-12-29]