森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

非現実の王国で ヘンリー・ダーガーの謎 (映画)


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ナレーション:
 ラリー・パイン

2004年 アメリ

第1回浦和映画祭にて鑑賞




シカゴの病院で掃除婦として働き、ミサには欠かさず出席する。
しかしそれ以外は一切表へ出ず、引きこもり続けた変人。
友人も親戚もなく、彼を知るには彼自身が書いた文章によるしかない。

そんな謎の人物ヘンリー・ダーガーは実は、『Darger』を”ダーガー”と発音するのか”ダージャー”なのかすらわかっていません。
聞く人ごとに「ダーガーと言っていた」「いやダージャーのはずだ」と一定せず、如何に影の薄い人物だったのかが分かります。


ダーガーを一番良く知る人物は彼が住んでいた家の大家であるラーナー夫妻ですが、その夫妻ですら彼がこんな膨大な創作をしていたとは知りませんでした。

その作品は15,000ページにも上る小説と300枚以上の絵です。

小説の題名は《非現実の王国として知られる地における、ヴィヴィアン・ガールズの物語、子供奴隷の反乱に起因するグランデコ-アンジェリニアン戦争の嵐の物語》

子どもを奴隷として虐待する国家とキリスト教軍の戦いを描いています。


ダーガーは子供を大変清らかなものと考えており、一方大人を邪悪な者と感じていたようです。
自身が大人になってしまったことにもジレンマを感じていたようです。

子供たちを天真爛漫で高潔に描く一方、大人たちを傲慢で暴力的に描いています。

このような小説と絵を描くようになった彼の生い立ちを偲ばせるような自伝的内容や独白も執筆しています。

絵画は様々な技法を独自に習得したようで、その実験の経緯なども日記として書かれているようです。

決して巧いとは言えないけれど、空想の世界のみに生きたダーガー独特の清々しさや毒が顕れていて一瞥で済ませる気になれません。

一糸纏わず男女入り交じって遊んだりくつろいだりする子供たち。
赤いコスチュームで天使の羽を持つ7人の少女戦士たち。
可愛らしく、また凛々しく描かれています。
一方でその子供たちが大人の手によって腹を割かれ臓物をとり出されたり、バラバラに解体されるというような描写も克明にしています。

おそらく社会通念というものが希薄で理屈や思い込みで形成された妄想の世界を描写しているため、感覚的なインパクトが強いように感じます。


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残念なのは、この映画のウリでもあるのですが、ダーガーの絵をオブジェごとにバラバラに切り離してアニメーションさせていることです。

これが非常にぎこちなく、素人の人形劇のようで実に奇怪です。
笑い声や効果音も挿入されていてオリジナルの絵の雰囲気を著しく壊しています。
これが映画の全編で行われているのです。

この作業に二年間もかけたそうですが、他人の作品をバラして動かすとは一体、クリエーターたる映画製作者たちのすべきことでしょうか?


それはさておき、ダーガーという作家を知ることができ、もっと探ってみたいという気持ちに駆られたのはこの映画のおかげではあります。








ちなみに大家さんのラーナー夫人はキヨコさんといい、英語の発音からネイティブ・スピーカーでないことは明らかで、飼い犬に「ユキ」と名付けていることからも確かではありませんが日本人であるように思われます。


[2011-11-3]