映画 《オーケストラ!》
《オーケストラ!》
原 題:Le Concert
監 督:ラデュ・ミヘイレアニュ
製 作:アラン・アタル
脚 本:ラデュ・ミヘイレアニュ、アラン=ミシェル・ブラン、マシュー・ロビンス
音 楽:アルマン・アマール
出 演:
アンドレイ・フィリポフ=アレクセイ・グシュコブ
サーシャ・グロスマン=ドミトリー・ナザロフ
イワン・ガブリーロフ=ヴァレリー・バリノフ
アンヌ=マリー・ジャケ=メラニー・ロラン
ヴァイオリンソロ:Sarah Nemtanu
2009年 フランス
販売元:ハピネット
(本稿にはラストシーンの写真がありますがストーリー・人間関係のネタバラシはありません)
その後30年間、彼はボリショイ交響楽団の清掃員という屈辱に身をやつしていた。
ある日清掃中に偶然パリのシャトレ座からの招聘案内を受け取る。
彼はその招聘状を持って第一チェロ奏者だったサーシャの許を訪れる。
サーシャの実行力で彼ら同様罷免され社会の底辺で働く当時の団員たちをかき集めて・・
(支配人の部屋を徹夜で清掃する元天才指揮者)
絶対にあり得ないオーケストラ全体の成りすまし公演を描いたドタバタコメディーです。
団員たちは30年ぶりのオーケストラ演奏。渡航費用もビザも楽器もない。
公演は成功するのか?
音楽と政治と友情と人生。
様々な要素がてんこ盛りになっています。
そのため人生映画としての真剣さはありますが、音楽映画としての真摯さはアンドレイ・サーシャ・アンヌ=マリーの三人に集約されています。
他の団員たちは晴れ舞台を夢見るどころかパリ到着翌日のリハーサルには来ないし、本番のある三日目にはパリで仕事を見つけて就労している始末。
そのあり得なさが笑いどころなのでしょうが、オーケストラを復活させてパリのステージに上がるという夢を団員たちが全く共有できないというのはいささか共感しづらいものがありました。
しかしセリフのあちこちに音楽への愛が込められており、最期のチャイコフスキー演奏もツボを心得て見応えがあるので、最後まで見た後には感動が全身を駆け巡る思いでした。
心に残った言葉たち
アンドレイ:アンヌ=マリーとの会食で
音符には一つ一つ命がある。
音符のそれぞれがハーモニーを探してるんです。幸福を探してる。
音符のそれぞれがハーモニーを探してるんです。幸福を探してる。
サーシャ:公演をキャンセルするというアンヌ=マリーに対して
言葉が何になる。言葉は裏切るし汚い。
美しいのは音楽だけだ。音楽はいつfも我々の中にあり決して離れていくことはない。
何故かね?
オーケストラは一つの世界だ。世界なんだイワン。
異なる楽器と異なる才能、それの寄せ集めだ。
コンサートのため演奏家は心を一つにし、魔法の音とハーモニーを生み出そうと全力を尽くす。
これこそ本物の共産主義じゃないか。コンサートという名の。
アレクセイ・グシュコブは不器用な天才の無気力と情熱の微妙な陰影をよく演じていました。
ドミトリー・ナザロフは三枚目ではあるけど登場人物中唯一の常識人であるサーシャを存在感たっぷりに演じてこの映画を支えました。
メラニー・ロランは美しく多感で誇り高い新進ヴァイオリニストをよく勉強して美しく演じていました。
実に芸達者な役者たちだったと感じます。
チャイコフスキーのソロ吹き替えはフランス国立管弦楽団の第一奏者Sarah Nemtanuという人が担当していますが、この人がなかなか良い。
特にコンチェルトの第三楽章は胸のすくような快演でした。
音楽映画とはたとえ主題が他の物であってもやはり音楽そのものの魅力を描いていなければならないと思います。
それでこそ挫折や夢が輝いて見えるのですから。
この映画もそれに成功した、クラシックを知る人にもそうでない人にも安心して進められる良作です。
ちなみに私が最も笑ったのは終盤の演奏会の出だし。あまりにヘタすぎてファンキーな音になっています。
あんなに不器用な演奏をプロの音楽家たちが良くできたものだと思います。
ただの滅茶苦茶ではなく、有り得そうに思える範囲で最低のダメダメさ加減に笑えます。
そして泣けたのは、演奏終了後。
アンヌ=マリーの泣きにつられてしまいました。
見終わった後しばらく他の事がしたくなくなりました。
[2011-10-30]