森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

ベジャール そしてバレエはつづく

ベジャール そしてバレエはつづく
LE COEUR ET LE COURAGE

2009年 スペイン
映画公式サイト:http://www.cetera.co.jp/bbl/top.html

2007年、ベジャール・バレエ・ローザンヌ(彼らはBBL(べべエル)と言っています)は創設者であり芸術監督であり振付師のモーリス・ベジャールを失いました。

これはベジャールを失ってから一年後に後継の芸術監督となったジル・ロマンの新作を上演するまでの記録です。

ベジャールの後継者、ジル・ロマン)
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ジル・ロマンによる新作振付、バッハのゴルトベルク変奏曲の練習風景が主体ですが、アダージェットやボレロやその他の懐かしい映像も出てきます。

それらにジル・ロマンのモノローグと団員たちや関係者の談話をまとめた形式になっています。


見ていて感じるのはいかにベジャールの存在が大きかったということです。
皆が口々にベジャールへの心酔ぶりを吐露します。

バレエ団は存続できるのか、自分は残るべきか。
そんな疑問が団員たちに渦巻いていたようです。

それと同時にジル・ロマンという、ベジャールのもとで育ったダンサーが素晴らしクリエイターであり指導者であったという事に大変感銘を受けました。

ジル・ロマンは鋭い感性と明確なコンセプトを持っていて、それをダンサーや舞台技術者に伝える情熱を備えています。

そしてダンサーたちのモチベーションを高め、感謝を表明することも怠らないすばらしいリーダーだと感じます。

ダンサーたちもコンセプトをよく吸収してダンスにフィードバックしています。

クラシックバレエと違って類型のない、物語性もない抽象ダンスなので、一人ひとりが振付師のコンセプトを完全に理解しなければ踊ることができないということがよく理解できました。)

ジル・ロマンの振付けは、ベジャールの人体の可能性を追求したような振付よりもエレガントで繊細に感じらる異なった個性ですが、今後もベジャールの振付を中心に上演していくことは間違いなく、BBLの技術や芸術性は今後は安泰だと確信できました。


ベジャール以外の振付を踊るのが初めてだというBBL。
観客に評価されなければ市からの補助金を打ち切られ個人スポンサーも離れてしまい、団の存続は不可能になってしまいます。

つまり彼らほどの素晴らしい集団でも今現在でさえ公演収入ではやっていけないということです。

何としてもこの素晴らしいバレエ団の火を消さないで欲しいと願います。

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《アダージェット》を踊るダンサー、ジル・ロマン

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悩める振付師、ジル・ロマン

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「舞台が始まれば、振付師にできることはない。」
舞台袖で 『見守る』 事ができず、一緒に身体を揺すぶるジル・ロマン。

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好評価が伺える終演



ちなみに、東日本大震災のチャリティーガラ公演も素晴らしいものであったと聞きます。

歌舞伎や文楽などに心酔したベジャールの弟子であるジル・ロマンも 「日本は完全に私の人生の一部だ」 と言います。
震災後フランス人たちが急遽日本から脱出し、航空機の便数が減ってしまうなどの現象を 「無責任で恥ずべき行為」 とまで言い切っています。

超一流のダンサーで才能豊かな芸術監督で、他人の境遇にシンパシーを持てる柔軟な心の持ち主。
何と素晴らしい人でしょうか。


ベジャールの言葉:
この比類なきアーティスト、ジル・ロマンを心の迷路から引き出すのに何年もかかった。
彼は自分の幻想と愛とコンプレックスに囲われていたのだ。
私は時間をかけて彼の資質を理解した。
彼がいかに私に近いか悟ったのだ。
私はジル・ロマンだけを見て自分の作品を上演し守り所有し続けてきた。
ほかの誰でもない。
今このバレエは彼のものだ。

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ジル・ロマンの言葉:
約束を実行しているところだ。
約束とは
ベジャール作品を最高のレベルで維持すること。
創作すること。
ダンサーを育てること。

時の流れは早い。
モーリスが逝って一年。
今果たそうとしているのは彼の死の床で僕が誓ったことだ。



感銘を受けました。
素晴らしい師弟愛です。


[2011-9-11]