森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

プッチーニ 《西部の娘》 ネーデルランド・オペラ

プッチーニ 《西部の娘》

指 揮:カルロ・リッツィ
合 唱:ネーデルラント・オペラ合唱団
演 出:ニコラウス・レーンホフ
出 演:
ミニー=エファ・マリア・ウェストブローク
ラーンス(保安官)=ルーチョ・ガッロ
ジョンソン(ラメレス)=ゾラン・トドロヴィチ

2009年12月 ネーデルラント・オペラ(アムステルダム)におけるライヴ収録


カリフォルニアのとある金鉱。
酒場の女将ミニーは保安官ラーンスの執拗な求愛を受けているが、ある男への想いに縛られている。

その男が突然酒場を訪れ再開するが、実は彼は盗賊ラメレスの仮の姿であった。
そうとは知らず再開に喜ぶミニーと、本気でミニーの虜になってしまったラメレス。

ミニーを奪おうとする得体の知れない男への嫉妬に狂う保安官は、かねてよりラメレス逮捕に執念を燃やしてもいた。
その保安官が、男がラメレスであることを知ってしまい・・・


1910年に発表されたこの曲はかなりモダンな感覚になってきていて、そのままミュージカルにできそうです。

ゴールドラッシュのアメリカを素材にしたことで、優美なプッチーニ節にアメリカの土の香りと野趣あふれる響きが加わっています。

イメージ 1
スター登場のようにミニー登場

















紅一点のエファ・マリア・ウェストブロークはきらびやかで伸びのある声です。
低い方も声が痩せず朗々と、最高音も細々とせず安定した歌い方。
歌い方にあまりタメがないので、とても気持良く聴くことができます。

ゾラン・トドロヴィチは疲れ知らずの情熱的なテノールです。
ささやくような柔らかい節回しは無いけど、晴朗な声質のベルカントで大変魅力的。

威圧的で嫉妬心いっぱいの保安官を演じるルーチョ・ガッロもこなれていてかつ力感のある好演です。
ある意味最も感情移入しやすい、男の当たり前の俗心をうまく表現しています。
この人のスカルピアを見てみたいと思わせます。

イメージ 2二人がワルツを踊れば(西部の酒場でワルツ?)

イメージ 3保安官は 「ぬおー、ムカつく!」

荒唐無稽でご都合主義なストーリーは思わず笑ってしまうのですが、歌も音楽も終始大真面目でコミック調に緩むことはありません。

演出は現代風で、アメリカの西部開拓時代の土臭さは全くありません。

小洒落たダイナー風の店に黒皮ジャケットの労働者たち。
真っ白なスーツの流しミュージシャン。
森はスクラップ車の山。

演出家は当たり前が嫌いですか。
しょっちゅう舞台に載る演目ではないのだから、観衆はオリジナル通り西部劇を見たかったと思いますが、面白かったので良しとしましょう。

笑ってしまう程のおとぎ話的荒唐無稽さと、違和感のない現代感覚。そのミスマッチに戸惑うけど、時空を超えたエンターテイメントとしてとても楽しむことができました。

さすがに二人が20ドル紙幣のホワイトハウスに入ってしまうラストの意味が私には全く理解できませんが。
タキシードとイブニングドレスで 「さらばカリフォルニア」 と言うからには、ニューヨークにでも逃亡し功成り名を遂げたというのでしょうか?
ホワイトハウスはワシントンだけど。
イメージ 4

何より端役まで含めて歌手陣が 「これが声楽のパワーだ」 と誇れるような歌を聴かせてくれたのに高い満足感を得られました。

演奏はさすがリッツィ。この野趣あふれるプッチーニを節度を持ってガッツリと盛り上げてくれました。


[2011-5-29]