森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

メトロポリタン歌劇場 《ピーター・グライムズ》

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リテン 《ピーター・グライムズ

2008年3月15日

指 揮:ドナルド・ラニクルズ
演 出:ジョン・ドイル
合 唱:メトロポリタン歌劇場合唱団






出 演:
ピーター・グライムズ=アンソニー・ディーン・グリフィ
エレン・オーフォード=パトリシア・ラセット
ボルストロード=アントニー・マイケルズ・ムーア
おばさん=ジル・グローヴ
セドリー夫人=フェリシティー・パーマー
ネッド・キーン=テディ・タフ・ローズ

NHKの放送を録画視聴)


ジョン・ドイルの新演出による《ピーター・グライムズ》です。

漁師のピーター・グライムズは徒弟の子供を死なせてしまった事で裁判にかけられる。
証拠無しで無罪となるが村では『子殺し』の汚名を着せられ居場所を失う。
裁判で禁じられたにもかかわらず漁に必要な徒弟を雇うが、その子もまた事故死してしまう。

ピーターを援助する者、憎む者、中立な者。状況を楽しむ物。
それぞれの思惑が集団的な狂気に呑まれていく恐ろしいシナリオです。


セットが秀逸でした。
高い板壁に沢山のドアがあり、そこに人が立って見下ろしたり、互いに距離をおいて会話をします。
これが村人の立場の違いと、ピーター・グライムズへの監視や迫害を象徴しているようです。
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気分を引き込むようなライティングもうまく、やや簡素なセットの現代的な演出ですがムードたっぷりです。


ピーター・グライムズのアンソニー・ディーン・グリフィは見た目とは裏腹にとても若々しく美しい声で繊細な歌を歌います。
ピーターの怒りや狂気を表現するにはやや素敵過ぎるかと思うほどです。

エレンのパトリシア・ラセットは理性的でもあり情熱的でもある未亡人教師を美しく演じていました。
蝶々夫人では強烈なパワーを見せてくれましたが、情熱を内に秘めた冷静さの表現は安定感のある歌唱で引き立っています。
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アンティのジル・グローヴも役になり切っていい味を出しています。まさに酒屋のおばさん。「いるいる、こんな人」という感じです。

印象的なのはセドリー夫人のフェリシティー・パーマーでした。
ゴシップ好きで悪意たっぷりの愚かな老女役をじつに憎々しく巧みに演じていました。
ああ、憎たらしい。
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全体的に演劇的に良く演じられていて、大変見ごたえのある舞台でした。

指揮はスコットランド人のラニクルズ。
1954年生まれの若い指揮者ですが、キビキビして情熱的で、ブリテンの描写力に富んだ音楽を清冽に表現していました。

集団狂気の引き潮のようなラストシーンが、もう少し意味明瞭に描かれたらもっと良かったろうと感じました。


[2011-5-8]