森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

コミック 《ニーベルンクの指輪》

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ニーベルンクの指輪 全四巻

原作・脚本・構成:池田理代子
画:宮本えりか
発行所:株式会社 集英社 YOU漫画文庫


この《ニーベルンク指輪》の指輪はワーグナーの楽劇を下敷きにし、少し《ニーベルンゲンの歌》の要素を加えて改変したもののようです。

だいたいオペラのプロットに沿っていますが、ブリュンヒルデがヴォータンとフリッカの娘であったり、アルベリヒとミーメが赤の他人であるなど、姻戚関係が変わっています。

またグートルーネはクリームヒルトと、ニーベルンゲンの歌の人名になっています。


読み始める前に思ったのは、この話にどう説得力を持たせたのだろうかと言うことです。

ミもフタもなく言ってしまえば、ストーリーもキャラクターの行動も現代人の世界観やモラル感からはとても奇妙奇天烈に思えてしまうのですが、それが音楽と歌の力で壮大で美しい叙事詩になっているのです。

しかしコミックでは話だけで読者を納得させ引き付けなければなりません。

結論から言うとオペラを知らない人には何が何だかわからないのではないか、と思えます。

そもそもこの世界が何で、ラインの黄金が何かが説明されていません。
ヴォータンが巨人族との契約をないがしろにして契約の神である自らを貶めた事にも触れられていません。
それで、神々の維新が失墜し世界が崩壊しかけていることがわからないまま始まり、進んでいきます。

テーマが《神々のたそがれ》ではなく、ブリュンヒルデジークフリートの愛の物語になっていて、全てがそのための回りくどい伏線になってしまっているのです。

だから第3巻の後半からはめっぽう盛り上がるのですが。

ジークフリート・グンター・クリームヒルト(グートルーネ)はオペラと違い、善人であり行動に必然性が感じられるので感情移入しやすくなっています。
それで、正直いうとジークフリート絶命のシーンは泣けてしまいました(^^ゞ 


それにしても驚いたのはあの20世紀最悪の男が時空を超えてこの神話に迷い込み、狂言回しを演じていることです。

指輪の呪いの力を20世紀の災厄に重ねて示したのでしょうか?
私には全くそんな必要は感じられないのですが。
クリームヒルトのその後も悲惨すぎるのです。興味があったら読んでいただきたいです。


セリフ回しが文語調の会話や貴族言葉はおろか、大人の話し方も身に付いてない人が背伸びをして書いたようで、たいへん辛く感じました。

絵も性格描写ができていません。
キャラクターの性格に関わらずこのセリフはこの表情、とステレオタイプな感じを受けます。

うーん。全体にこの楽劇を漫画化するという気概を感じづらい出来です。


因みに私は特に少女漫画をしょっちゅう読むというわけであはありませんが、ことさら避けているわけでもありません。
池田理代子も《ベルサイユのばら》は読んでいます。

《エースをねらえ》とか《キャンディ・キャンディ》とか名作でしたね。

一番最近イッキ読みしたのは《死と彼女とぼく》かな。

萩尾望都も好きです。

が、やはりコマ割りやセリフの間などが少年・青年漫画とは違いがあり、面白い内容でも大変読みづらく感じてしまいます。

男を客観視しているのは仕方ないですね。
ジークムントが格闘するシーンや死ぬところも傍観者の視点で書かれています。
少年漫画や青年漫画なら手に汗握るシーンなのですが、そういう力が入る描写ではありません。
逆に女性が少年漫画の女性キャラクターに違和感を感じるであろうということも常々感じていますが。


池田理代子さんはオペラが好きで他にもオペラを題材にした漫画をプロデュースしているようですが、おちゃめなコミックオペラや少しリアリティーのあるヴェリズモなら良かっただろうと思ってしまいました。


[2011-2-9]