森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

CD イリーナ・メジューエワ 《楽興の時》スクリャービン&ラフマニノフ

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プレリュード ロ長調 OP.16-1
プレリュード 嬰ハ短調 OP.22-2
プレリュード ロ長調 OP.22-3
プレリュード 嬰ト短調 OP.16-2
プレリュード ト短調 OP.17-7
ピアノ・ソナタ第2番嬰ト短調 OP.19《幻想ソナタ
楽興の時 OP.16(全6曲)

ピアノ:イリーナ・メジューエワ
2009年1月、4月 新川文化ホール
発売元:若林工房


聴き始めてすぐに驚きます。
スクリャービンを聴くのだからスクリャービンの音を待ち構えていたのですが、聴こえてきたのはなんともまったりとしたコクのある音だったからです。

もちろんスクリャービンの譜面をスタインウェイで弾いて出てくる音をスクリャービンらしくないと言うこのは暴言でしょう。

しかしこれまでたくさん聴いてきて凡人みんながこうだと思うスクリャービンらしさ。
ソノリティは鋭利で冷たく神秘的だけど、人間的な優しさや情熱や官能がほとばしる音楽。

それに対してメジューエワはあくまでも人間のロマンを出発点として、神秘性や冷たさを加味したような表現を志向しています。
フレーズ全体で一つのムードを醸しだすような、流れの音楽をせず、いつもの彼女らしく一音たりとてゆるがせにしない丹念な音作りを実行していきます。
まるで母が子に一言一言歌い聴かせる歌のように。

しかし、その音はあまりに美しく磨きぬかれていて、人間の五体を離れた純粋な魂の歌のように聴こえます。そういう意味ではロマンの向こうに神秘性が飛翔しているのです。



ラフマニノフも同じ傾向の演奏ですが、ラフマニノフの若書きのこのプレリュードでは超絶技巧も聴きものです。
メジューエワは見世物的な技巧を披露することはありませんが、曲が超絶技巧で出来ているのでは仕方ありません。
彼女がゆったりマッタリしているばかりだと思う人もいるかも知れませんが、これを聴いたら完全に打ちのめされるでしょう。

楽興の時6番の最後の和音では、めずらしく感極まった彼女の打鍵が聴けます。

完全にコントロールされた美しい音。愛情にあふれたフレージング。強くて優しいタッチ。大きな構成力。隙のない緊張感。溢れ出て尽きることのないイマジネーション。
そして、申し分のない超絶技巧。

なんと、すごい演奏家でしょう。


[2010-9-18]