森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

イリーナ・メジューエワ ライブ録音集2002~2005 - 2


イメージ 1イリーナ・メジューエワ ライブ録音集2002~2005 - 2

ピアノ:イリーナ・メジューエワ
発売元:若林工房










ロマンス 嬰ヘ長調 OP.28-2
アラベスク OP.18

ショパン
ノクターン ハ短調 OP.48-1
ノクターン ホ短調 OP.72-1
幻想即興曲 嬰ハ短調 OP.66
ノクターン 嬰ハ短調(遺作)
スケルツォ 第3番 嬰ハ短調 OP.39
エチュード ホ長調 OP.10-3 《別れの曲》

キュイ
プレリュード ヘ短調 OP.64-16
(2005/6/14 所沢市民文化センター ミューズ キューブホール)

メトネル
朝の歌 OP.39-4
悲劇的ソナタ OP.39-5
(2002/7/23 新潟市民芸術文化会館 りゅーとぴあ)



シューマン
ロマンス 嬰ヘ長調 OP.28-2
アラベスク OP.18


シューマンショパンのようにロマンの中に身を置くというより、少し離れた所から切実に追い求めるような印象があります。
それがメジューエワの美しくはあるけどどこか禁欲的な面と非常によく合っています。

私は一時期アルゲリッチの弾くアラベスクを目覚めの音楽にしていたことあって、それはイマジネーションを飛翔させてくれ、自由を味あわせてくれましたが、ちょっとアルゲリッチの個性に付き合わされていると感じる面もあったのです。

メジューエワは抑制や諦念の向こうに封印した切ない望みを垣間見させてくれるような、こちらから寄り添いたいような美しい音楽を奏でます。


ショパン
ノクターン ハ短調 OP.48-1
ノクターン ホ短調 OP.72-1
幻想即興曲 嬰ハ短調 OP.66
ノクターン 嬰ハ短調(遺作)
スケルツォ 第3番 嬰ハ短調 OP.39
エチュード ホ長調 OP.10-3 《別れの曲》


彼女はどの音楽もそうですが、ショパンでは殊にアゴーギクよりもソノリティを重視しているように感じます。他の演奏家があまりに自由に弾くせいかもしれませんが。
2005年に録音されたこれらショパンは、彼女にしては情熱が燃え上がるのを抑えきれないような、燃焼を感じます。
赤黒いほむらのような表現から青白いキラメキが情熱の衝動のように明滅し、それを開放して火花が飛び散るような激しさを見せます。

最近の彼女は『この曲はどう演奏されるべきか』という意識が先に立っているように感じるのですが、ここでは情熱の発露も見せているのが魅力です。


キュイ
プレリュード ヘ短調 OP.64-16


ロシア五人組の一人キュイの曲です。
ロシア的なほの暗いロマンとフランス的な軽やかさが交互に現れる魅力的なバランスの曲ですが、ムードたっぷりに演奏しています。


メトネル
朝の歌 OP.39-4
悲劇的ソナタ OP.39-5


《朝の歌》プーランクのノヴェレッテのように爽やかで叙情的な曲です。
それだけに考え込んだり、過剰な演出やまろやかな表現よりは、サロン的な洒脱でサラリとした表現が必要だと思われますが、メジューエワはそれもこなしてしまいます。
ちゃんと分かっているし、決して作品を自分に引き寄せたりはしない姿勢には大変好感が持てます。

《悲劇的ソナタメジューエワの個性と『この曲はどう演奏されるべきか』という考えが完全に一致し、彼女のポテンシャルの全てをフィルターなしに全力投入した印象です。

ロマンも構成も、文学的な香りも体育会的な迫力も、全ての要素が漲った11分以上を全力疾走しているような鬼気迫る演奏です。

彼女がメトネルを弾くのは単に使命感のためではなく、本当に彼女が惹かれているのだとよくわかる演奏です。

イリーナ・メジューエワ ライブ録音集2002~2005 - 1
[2010-9-14]