森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

ロッシーニ 『ラ・チェネレントラ』 (シンデレラ)

ロッシーニ 『ラ・チェネレントラ』 (シンデレラ)

指揮:マウリツィオ・ベニーニ
演出:チェーザレ・リエーヴェ
出演:
王子=ローレンス・ブラウンリー
ダンディーニ=シモーネ・アルベルギーニ
ドン・マニフィコ=アレッサンドロ・コルベリ
アリドーロ=ジョン・レリエ

上映時間:3時間19分

METライブビューイング
ホスト:トマス・ハンプソン

NHKの放送を録画視聴

《シンデレラ》の話ですが、魔法使いもガラスの靴もカボチャの馬車も出てきません。
灰かぶりというキーワードは出てきますが。
ストーリー全体を王子のお付きである賢者が主導していて、ハッピーエンドへまっしぐらというわかりやすいストーリーです。
コミックなので悲惨な描き方もされていません。
イメージ 1

ガランチャは始めこの人から声が出ていると気づかないほど楽々とした歌いっぷりで、発声にムリと言うものが全くありません。
姿勢も顔の表情も、『歌っている』という事を余り示さず、かなり複雑なコロラトゥーラも電子楽器でも内蔵しているかのように自然に流れ出てきます。
何気なく日常会話でもするように高難度のフレーズを歌いこなしてしまいます。

声質は柔らかいけど太くはなく、音程がしっかりしているので旋律にフォーカスを感じます。
実に魅力的なメゾ・ソプラノです。
イメージ 2何と麗しい!

本人の希望でロッシーニはこれで封印し、旋律の美しさが際立つようなロマンチックなオペラに取り組んで行くそうですが、正解でしょう。

イメージ 3
左から王子、王子に扮した従者、チェネレントラ

王子のブラウンリーはチェネレントラのガランチャより15cmくらい背が低いようです。

あまり素敵な王子様という雰囲気ではありませんが、何故この人がキャストされたのかは聴いていればすぐにわかります。

ロッシーニテノールとソプラノは当時より国際標準キーが上がっていることもあり、かなり大変だと思うのですが、このブラウンリー、物凄いテノールです。

ロッシーニは15役をやったと言うことで堂に入っていることもありますが、とにかくその安定感たるや、余り声楽に詳しくない人が聴いたら簡単な曲を無難に歌っているようにしか聴こえないでしょう。



ハイCがしょっちゅう出てきますが、難なく、まったく努力や頑張りを感じさせずこなしています。
男性の苦手なeの母音で、平気で出しています。
ブレスも長いし音程も抑揚も安定感タップリです。

テノールと言うのはある種の困難さや危うさを感じさせるところに魅力があるのですが、そういうものは感じにくいと言えるでしょう。
しかし、すごい歌唱力です。


賢者アリドーロのジョン・レリエは出番はさほど多くはないものの、狂言回しとして非常に重要な役柄です。
朗々としたバス・バリトンで、十分な存在感を示しました。

他にはほとんど王子としての扮装で活躍する従者役のアルベルギーニも明るめの美声で、出ずっぱりの役柄としてこの上演全体の魅力を高めていたと言えるでしょう。


惜しかったのは、早口言葉のような複雑で早い唄がたくさんあるのですが、統率が取れていないことです。
オーケストラもこなれていないように感じました。

ガランチャ自身も、コーラスや独唱やたくさんの音が被るので、指揮やプロンプターが頼りだったと語っていますが、もう一歩だったようです。


しかし、胸のすくようなハッピーエンドですからロッシーニ節も合っており、とても楽しめました。


[2010-9-5]