CD評 ショパン:ノクターン集(イリーナ・メジューエワ)
イリーナ・メジューエワ
録音:2009年7,9,10月
発売元:若林工房
私はショパンのノクターンというのは、幸福の予感に心が浮き立つような感覚と、それを願う切なさが入り交じったような感覚を受けます。もちろん曲によって様々な表情を持っているのですが、全体的には情熱と共にどこか楽天的な雰囲気が流れているように感じます。
ホロヴィッツ、ルビンシュタイン、フランソワなどは皆そのように演奏します。
そして、サロン的な洒脱さや軽やかさを演じます。
メジューエワは少し奥ゆかしくためらいがちな女性が、ひたむきに愛を訴えてくるような印象です。
優しく暖かく、そして内向的な情熱が時々堰を切って溢れ出るような演奏です。
音色はひたすら磨き抜かれていて美しく、それがダイナミズムで破綻することがありません。
ショパンの音楽は時々フワっと舞い上がって空を駆けるような感覚があるのですが、彼女の演奏は水中を泳ぎ回るようです。常に心の重力の中で駆けているように感じます。
軽やかさと言うものはあまり感じることはできませんが、練りこまれた美感と精緻な表情で優雅に泳ぎ回っています。
全てをじっくりと熟成させた音楽で、ショパンとしては窮屈さを感じる聴き手もいるかも知れませんが、弛緩することが一切ない美しさは必ず一聴に値します。
全ての演奏がため息が出るほど美しいのですが、とりわけ作品62の1は静謐な叙情を湛えた名演だと思います。
[2010-5-27]