バレンボイムのショパン
幻想曲 ヘ短調 Op.49
華麗な円舞曲 ヘ長調 Op.34-3
ワルツ イ短調 Op.34-2
ワルツ 嬰ハ短調 Op.64-2
子守唄 変ニ長調 Op.57
ワルツ Op.64-1 「子犬のワルツ」
何枚か発売されたCDもあまり良い評判を聞きません。
ではこの演奏はどうでしょう?
それは『いつものショパン』を求めるにはちょっと違う個性なのかも知れません。
いつも聴く歌や音色や余韻ではなくなっています。
音色や音の粒立ちがむしろリストのように聴こえます。
私は彼のこういう心情の吐露のような演奏を聴くといつも、傍らのジャッキー(ジャクリーヌ・デュプレ)にピアノで愛の囁きを弾いて聴かせるプライベート映像が思い起こされて、切なくなってきます。
もうずっと以前ですがバレンボイムがパリ管弦楽団と来日し、サントリーホールで《法悦の詩》と《オルガン付き》という派手なプログラムで会場を湧かせた後、拍手が鳴り止まなくなってしまい、楽団が退場しヤマ台も収納され挙句には舞台照明が落とされてしまった後になってピアノを引っ張り出してきて、薄暗い中で何曲か演奏してくれたということがあったのです。
その演奏が当日の曲目と裏腹に実に切なく優しく、私の横にいた妻は感極まって泣いていましたし、会場全てが涙ぐんでいるように感じられました。そしてバレンボイム自身も目に涙を溜めて会場に感謝の眼差しを送っていました。
そういう愛を感じさせる資質が彼にはあるのだと思います。
ただ《華麗な円舞曲》や《英雄ポロネーズ》ではそういう資質が活かされず、違和感が先に出てしまうことも否めないのですが、他の美しい演奏まで否定する理由にはなりません。
[2010-5-16]