森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

ピアノ協奏曲 ショパン:シューマン、ユンディ・リ:ペライア

NHKで『ふたりの天才』という、ショパンシューマン池辺晋一郎氏が並べて論じる番組を放映していました。
その協奏曲編です。ショパンシューマン、どちらも以前に放映されたものですが、改めて並べて聴くといろいろ考えさせられるものです。。



イメージ 1ショパン ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 作品11
ピアノ:ユンディ・リ
指揮:阪 哲朗
管弦楽NHK交響楽団
2003年9月4日 NHKホール

二十歳のユンディ・リ
音楽性はウェットでウォームで粘りがあります。そして音はクリアで寒色系という反対の資質をもっているので、まとわりつくようなしつこい甘さが感じられないし、線の細さがデリカシーという良い方向に聴こえてきます。、

ショパンで聴く限り誰でも好きになるピアニストでしょう。

ルビンシュタインのような『男の背中に漂う哀愁』というのはないけど、二十歳の若者にそれを求める人はいません。
あと少ないものは、理知的なノーブルさ(ひたむきなノーブルさはあるのですが)。力強さ、ゴージャスさ。これらはブレハッチには有ったもの。

しかし、そんなに何もかも求めなくとも十分魅力的です。
なにしろ15年ぶりのショパンコンクール優勝者という逸材ですが、その名に恥じない実力と言えるでしょう。



イメージ 2シューマン ピアノ協奏曲 イ短調 作品54
ピアノ:マレイ・ペライア
指揮:ベルナルト・ハイティンク
管弦楽:ロイヤルコンセルトへボー管弦楽団
2009年3月8日 アムステルダム コンセルトヘボウ

ペライアもリリシストと良く言われるけれど、ここでの彼のピアノは理知的にコントロールされ研ぎ澄まされたもので、冷たい質感と透明感で貫かれ、テンポの揺れは多いけど粘りとは感じらません。

イメージ 3実は彼の1987年、デイヴィス+バイエルン放送交響楽団のCDを持っているのだけど、その時より遅くなっています。

改めて1987年版を聴いてみると、開始こそあっさりしたテンポに感じるものの、それに馴染んでみると透明感と推進力の両方が物凄い高みで結びついて、美しい迫力ともいうべき独特な高貴さを獲得しています。
第3楽章は全く乱暴な感じがしないのにキラキラと輝いて爽快で力強い迫力に圧倒されます。

20年後である今回の演奏はやはり落ち着きが出てきています。
じっくりと歌わせやや普通の演奏に近づいたかと思わせますが、ひたむきな推進力の代わりにおおらかな叙情の比率が高まって、その他の資質は変わっていないと思います。



二十歳のユンディ・リと円熟のペライアを比べるものではありませんが、むせ返るような若々しさを放出するユンディ・リに対して、透徹した響きから溢れ出る詩情のペライア
同じ楽器で似た傾向の音作りをし共にリリカルといわれる音楽性ですが、全く異なる味わいを持っています。

たまたま比べるテレビ番組に便乗しましたが、本当に素晴らしい芸術に接することができました。


[2010-3-14]