森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

歌劇《カルメン》 チューリヒ歌劇場

歌劇《カルメン

チューリヒ歌劇場合唱団
チューリヒ歌劇場 児童・少年合唱団
チューリヒ歌劇場管弦楽団
指揮:フランツ・ウェルザー・メスト
美術:フォルカー・ヒンターマイヤー
衣装:スー・ビューラー
演出:マティアス・ハルトマン
出演:
カルメンヴェッセリーナ・カサロヴァ
ドン・ホセ=ヨナス・カウフマン
エスカミーリョ=ミケーレ・ペルトゥージ
カエラ=イサベル・レイ
収録:2008-6-26・28 7-1 チューリヒ歌劇場
NHKの放送を録画視聴


まず気になるのは舞台のチグハグさです。
警官の一団が海岸と思われる場所にやってきてビーチパラソルとチェアを設置し始めます。
このオペラの出だしの歌詞は何でしたでしょう?そう「広場を行き来する人々・・」ですね。そして次は「衛兵詰所で暇つぶし」。
歌と景色が全く合っていませんね。

イメージ 1そこへドン・ホセを訪ねてミカエラがやってきますが、この者たちに服をはぎ取られ逃げ出します。
そんな演出で何を狙っているのか、全く意味不明です。

イメージ 2『ラッパを鳴らせ』
この子たちが歌いながら銃を撃ち合う茶番劇を演じるのですが、学芸会にも出せないような稚拙な演出で可哀想になります。

イメージ 3砂浜に現れた《どこでもドア》からカルメン登場。
海の家のおばさんのようです。
登場してすぐに《ハバネラ》が始まりますが、服装やメイクだけでなく振りにも全くチャームがなく、酔っ払って管を巻いているようにも見えます。

イメージ 4しばらくしてミカエラとドン・ホセの邂逅シーンですが、ミカエラは下着姿のまま。
ずっとこの格好でドン・ホセを訪ね歩いていたのでしょう。
出会った後突然自分の姿に気付いて恥じるのですが、ここは笑いどころなのでしょうか?

イメージ 5ダンスにどうも品がありません。
フラメンコを真似ていると言うより、ベリーダンスのなり損ないです。
それをこのヨレた衣装でやるので、とっても下品な感じがします。

以下この調子でとうとう最後のカタストロフィーまでまっしぐらです。

この舞台は《能》の象徴性を参考にでもしたのでしょうか。能では演出を何百年も突き詰めて来た結果象徴性が説得力を持つのですが、そういう背負ったものはこの舞台には何も感じられないのです。

私には全く不可解な《カルメン》でした。




しかし『ネガティブオンリーの記事は書かない』と決めていますので良い部分も書いておきましょう。

カルメンヴェッセリーナ・カサロヴァはとても達者な歌上手です。コロコロと声域を切り替える技は素晴らしいと思います。
ただ周りの男達やドン・ホセを誘うよりも『私は私よ』といった一人上手な印象で、観客にだけアピールする歌いまわしと感じました。

ドン・ホセのヨナス・カウフマンが光っていました。
この演出ではドン・ホセは気が弱くウブで優柔不断としているようですが、とても良く演じていました。歌唱も申し分ありません。

カエラのイサベル・レイも初々しさを発音と発声に表現していて好演だった言えます。
ドン・ホセとミカエラの二重唱は十分聴きごたえがありました。

オーケストラはうまいのですが、暗い予感めいたものがあまり表現されていないように感じました。


気に入らなければ途中でやめてしまえばいいのだけど、何故かこの不可解さを放っておけなかったのです。
チューリヒの観衆はこれで楽しめたのでしょうか?
不思議な《カルメン》でした。


[2009-12-17]