森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

トゥーランドット 新国立劇場2008-2009


演 出:ヘニング・ブロックハウス
美術:エツィオ・トフォルッティ
振り付け:マリア・クリスティーナ・マダウ
合唱:新国立劇場合唱団
児童合唱:NHK東京児童合唱団
管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団
指揮:アントネッロ・アッレマンディ
出演者:
トゥーランドット=イレーネ・テオリン
アルトゥム皇帝=五郎部 俊朗
ティムール=妻屋 秀和
カラフ=ヴァルテル・フラッカーロ
リュー=浜田 理恵
官使=青山 貴
クラウン=ジーン・メニング

新国立劇場オペラパレス 2008年10月7・10

NHKの放送を録画視聴


未完の大作《トゥーランドット》。新国立劇場2008-2009シーズンのオープニング公演です。

イメージ 11920年代のイタリアの田舎町という設定です。ここでハテナマーク点灯。
広場にやって来る紳士淑女の前に劇団一座が現れ仮面を被せていく。何が始まっているのか意味がわかりません。

イメージ 2そして一同の扮装が完了し中国風の大道具が据えられると第一幕開始となります。


イメージ 3始まってすぐに気づくのは日本人歌手がまったく不足を感じさせないことです。
主役のフラッカーロはかなり芯の強い、鋼のような高音を出すテナーなのですが、彼と絡むシーンでも聞き劣りすることはありません。

色設計がとても綺麗で目を飽きさせることの無い、カラフルな舞台が続いていきます。
イメージ 4イメージ 5

イメージ 6タイトルロールのイレーネ・テオリンはかなり張りある声ですが、ちょっと懸命すぎる感じがしてトゥーランドットの冷たさや高飛車さは表現出来ているものの、歌としての余裕が無いような気がします。

処刑人のプーティンパオを演じたダンサーの竹田真奈美さんは、目を見張る演舞を見せてくれました。この人のダンス公演があったら是非見に行きたいと思わせます。
イメージ 7イメージ 8

イメージ 9日本人歌手はみな素晴らしい歌唱でしたが、中でもリュー役の浜田理恵さんは凛々しい立ち居振る舞いと歌唱で魅せました。
ティムールの妻屋秀和さんは柔らかいバスなので頼りないと思う人もいるかも知れません。しかし役に合っているし声量も演技も堂々たるもので実力は十二分な素晴らしい歌手だと思いました。

リューが自害した後くらいから元のイタリアの広場に戻ってしまいます。
ここら辺の意図がよく理解できません。
劇中劇というにも府に落ちません。扮装や大道具の切り替えが意味ありげでありながら説明調の演出なくのらりくらりと場面転換して行くのです。

しかし最後は《誰も寝てはならぬ》の旋律の大団円で訳も分からぬまま何となく感動させられてしまいました。
イメージ 10

歌唱は素晴らしかったし、カラフルな中国場面を挟んで、青く沈み込んだイタリアの場面の光の設計がとても巧みで、現実を忘れて舞台に没入することができました。
バレーやアクロバットやらソロの演舞など見所満載でブロードウェイミュージカルのようなエンターテイメントになっているし、フラッカーロの張りのある美声を始めとして、感覚を楽しませる要素が有り余る公演でした。

それで、もともとの話が珍妙な上に謎の演出で混乱させられながらも、正体不明のパワーにとらわれて感動してしまったようです。

それにしても感慨深いのは、主役二人や演出も美術も外国勢だとしても、日本人が主体のプロダクションでこれだけのクオリティーを実現していたことです。

東フィルは華麗かつ重厚なサウンドで一幕の出だしからサウンドを堪能できました。
プッチーニらしい浮ついた華麗さというよりは足腰がしっかりした音でしたが、これだけ音と表現がしっかりしていれば個性として納得できるものです。

カメラワークに寄りが多くカラフルな舞台を楽しめずにフラストレーションを感じました。
こういう演出は舞台全体を固定カメラで撮るだけで良いと思います。


[2009-12-21]