森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

ファッションから名画を読む

イメージ 1ファッションから名画を読む
著者:深井晃子
出版社:PHP研究所PHP新書

著者の深井さんの専門は服飾史だそうです。
切り口が面白そうなのと、表紙のフェルメールに引かれて買ってきました。


第一章から
ルネサンス期のイタリアでは
額の剃り込み、
スラッシュと言う衣服を引き裂いて着る習慣
左右非対称のカラーのタイツ
ミニスカート
などどいう、現代人も付いて行けなそうな奇矯なファッションが流行していたといいます。掴みはバッチリと言う印象です。

イメージ 2スケッジャ
《アディマーリ家のカッソーネ》
1440-50
(これは実際は横長のパネルです)

これと、《モナ・リザ》の地味な服装を対比させます。
そしてダ・ヴィンチの「粗野でまずしい布をまとった山の娘が・・」云々に言及し、モナリザの服装は喪服などではなく、女性の美しさを理想的に描くために質素な装いに仕立てた、という説を披露します。
大胆ではありますが、サラッと流すように書かれています。

正直言うと、構成は大枠の中で時代や主題の間を行き来し、文章は解説本でありながら随筆のような感想や経験談などを伴ったゆるい記述で、読み手を論旨へ導く構成力と集中力には欠けているといわざるを得ません。
平易な文章でありながら、論旨を掴み取るのが難しいともいえます。

そこで、自分のために改めて内容をまとめてみました。


この本全体をあらかじめ要約し(第一章)

絵画に描かれた服装は当時の実相を反映しているのか・・を考察し(第二章)

交易や社会の変化から衣服の布地の変化と絵画におけるテクスチャー表現に言及し(第三章)

天然の顔料・染料の限界と合成された絵の具の開発、そしてモードやオートクチュールの発生(第四章)

靴やパラソルなど小道具の社会的役割変化と絵画表現(第五章)

オスマン計画によって生まれ変わったパリと『パリジェンヌ』の発生(第六章)

モード版画や印象派の画家たちとパリのファッション(第七章)

拷問器具とも呼ばれたコルセットやバスルとファッションそして下着(第八章)

バレエ・リュス(ロシア・バレエ)とアート。現実を写し取ることから表現するアートへと変貌していき、従ってファッションからも離れてゆく絵画(第九章)

そしてエピローグでは、布としての着物(日本の)が、西洋絵画の写真としての機能から装飾・アートへの変化を大きく手助けしていたという、学説といってもいいような見識を披露しています。


こうやってまとめても、ちょっと支離滅裂な感はあるのですが、「印象派の画家たちはモードの観察者であった」など、考えたこともない文脈に出会えたのは良かったと思いますし、絵の見方がより深まったことは確かで、読む価値は十分あったと思います。


[2009-6-29]