森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

CD マーラー 『千人の交響曲』 インバル・都響

マーラー 交響曲第8番『千人の交響曲


イメージ 1澤畑恵美、大倉由紀枝、半田美和子(ソプラノ)
竹本節子、手嶋眞佐子(メゾ・ソプラノ)
福井敬(テノール
河野克典(バリトン
成田眞(バス)
NHK東京児童合唱団・晋友会合唱団
東京都交響楽団
エリアフ・インバル(指揮)
録音時期:2008年4月29日(ライヴ)
録音場所:ミューザ川崎シンフォニーホール
オクタヴィアレコード(エクストン)


三夜連続公演
2008/4/28 東京文化会館大ホール
2008/4/29 ミューザ川崎シンフォニーホール
2008/4/30 サントリーホール
の内これは中日のミューザ川崎での公演のCD化です。


オケもソリストも合唱も、インバルの霊感を受けて自発的に機動的な演奏をしています。
インバルが指揮で枠をはめるのではなく、エネルギーの放射先を指し示すような、そんな伸びやかさとしなやかさを感じる演奏です。

○テンポが決して前のめりにならず、しっかりとしたリズムを踏んでいくこと。またアクセントを際立たせること。
○テンポも音量も引くところは引いて聴きてを引き付けること。
○どんな強奏でも決して音色を崩さないこと。

このように基本とはいえ感興に乗る程おろそかになる事を、この大人数が見事にこなしています。

ものすごい情熱なのだけど、闇雲に突っ走ることなく明確な音楽的目標を持った情熱の燃焼になっています。
荘厳で神秘的な『千人』というよりも、生命力と躍動感にあふれたスペクタキュラーと言えます。
演奏のヴァイブレーションに否応なしに同期して魂を揺さぶられます。

ソリストも高水準で、特に澤畑さんはあんな柔和な表情で初めから最後まで圧倒的なパワーとコントロールで歌いきっているのは驚異的です。
福井さんも、若々しく情熱的な声質と敬虔さを湛えたイントネーションで素晴らしい歌唱です。

子供達は美しくニュートラルな天使の響きと率直な情熱で、この演奏の隠れた精神的支柱になっています。

そして都響。このオケには『色』や『華』があって、とても高水準です。弦には美しい響きが載っていてかつ締まっているし、ブラスの震えも背筋がゾクゾクする程素晴らしい。

この演奏は日本人によるクラシック演奏のひとつの金字塔といえると思います。


録音は、インバルのマーラーと言えばワンポイントマイクで一世を風靡したものですが、その対極にある、マルチマイクを駆使したあからさまなミキシングの職人芸です。
全強奏もマンドリンピッキングノイズも同様にはっきり聴こえます。本来あり得ないけど、ま、美しいからいいか?

それにしても、ああ・・自分はどうして、そこにいる事ができなかったんだろう。


[2009-5-22]