森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

昭和侠盗伝- 天切り松 闇がたり (第四巻)(浅田次郎)

イメージ 1昭和侠盗伝-天切り松 闇がたり(第四巻)
作者:浅田 次郎
出版社:集英社集英社文庫

名残惜しくもいよいよ最終巻です。

時代は下って昭和も日中戦争直前が舞台です。

大正ロマン、日本のベル・エポックは去って、任侠も廃れ始めた時代。目細の安吉一家は江戸の心意気と矜持をどう貫いてゆくのか?昭和の東京に彼らの居場所はあるのか?

日本全体が狂気の時代に突入し、悪党も善人も時代の毒に飲まれてゆく。
何が悪で何が善かもわからなくなる時代の転換点で、最後の最後に銀座の街角の、さりげない日常を描いて、突然現代からその場に放り出されたような、返って真に迫る凄みを感じさせました。
胸が締め付けられる思いです。

全四巻読み終えて、大衆小説と侮れない熱く、また切ない思いに満たされた作品でした。『霞町物語』に見られるように、作者の古き良き東京への尽きぬ愛情と、青春への憧憬が結実している、詩情あふれる作品でした。

東京で生まれ育って、千住・上野・曳船向島あたりを知る私は、天切り松たちが通り抜けてゆく地理がおよそ絵に描けます。
「ああ、湯島のあの天麩羅屋の横の坂ね」とか、「公会堂が出来る前のロック座の裏あたりね」とか、本当に子供時代に帰ることができました。
それに私の子供時代にはべらんめえ調でのケンカが町中で見られました。気性が荒いけど、子供にとってはぜんぜん怖くないおじさんたち。ぶったたかれ、はったおされるけど、それで終わり。なんだか怖くない。

あの時代に戻りたいとは思わないけど、滅びた情感を掬い上げたような、死んだおばあちゃんの膝枕でまどろんでいるような、禁断の甘い思いがこみ上げてきました。


構成
昭和侠盗伝
日輪の刺客
惜別の譜
王妃のワルツ
尾張町暮色



[2009-4-7]