森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

インバル&都響 『千人の交響曲』

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マーラー・ツィクルス第2期 ツィクルス8
千人の交響曲

指揮:エリアフ・インバル
ソプラノ:澤畑恵美、大隅智佳子、森麻季
メゾソプラノ:竹本節子、中島郁子
テノール:福井敬
バリトン:河野克典
バス:久保和範
合唱:晋友会合唱団
児童合唱:東京少年少女合唱隊 





インバル=都響の『千人の交響曲』にテレビとCD(CD評はここ)で接して以来ずっと実演に臨みたいと切望していたその「再演」にとうとう行く事ができました。
前回は2008年4月。
インバル、都響、晋友会合唱団、沢畑恵美、福井敬、河野克典など。主要メンバーが再結集し6年越しの再演です。
そして私はこの曲の実演自体が初めて。本当に楽しみにして出かけました。

前回が東京文化会館ミューザ川崎サントリーホールだったのが今回は東京芸術劇場とみなとみらいホール。
どうしてか両者とも柔らかく暗めの響きを持つホールとなっています。

演奏は基本的に前回と同様のコンセプトですがインバルの交通整理はより行き届いており、この曲特有の音の氾濫の中で迷子になる感覚は全くありません。
都響も合唱もインバルの意図を理解し、音量変化にもテンポ変化にもいっそう的確に応じて迷いがありません。
曲のツボを理解したためか、前回の青天井の熱気に対して今回は「このくらいが的確だろう」というようなセーブも感じます。オーケストラとオルガンと合唱の音量が調和して1つの色合いを成しているのです。
その上でインバルのディレクションにホールの特性も手伝ってどんなに複雑で大音量の場面でも響きが混濁することはなくまるで織り糸の一本一本が見て取れるようです。

そんな整った演奏なので、以前の高揚感は減退しているように感じられたかわりに交響曲としては立派な伽藍を見せてくれました。
とは言え決して醒めた演奏というわけではなく私は第一部終結部のあまりの威容に感極まって嗚咽が漏れそうになってしまいました。腹筋の震えを抑えるのに懸命で音楽の余韻に浸る余裕が無かったほどです。

それにしてもこのホールは、バンダのある大編成オーケストラとパイプオルガンと400人近い合唱と7人の声楽ソロイストが全強演しても飽和しない、そして弱音も痩せないという驚異のホールです。
ただし演奏陣が余りに広範囲に展開しているので16列のド真ん中という絶好の席でもソロと合唱が遥か遠くに感じます。(それでもオケを突き破って来るようなテノールの福井敬さんの声は本当に凄い!)

第二部には静寂の中で煌めく透明感もあるはずなのですが、それは余り感じられず少し残念でした。森麻季さんの聖母がそれを全て引き受けていたように思えます。チョイ役とは言え第二部を引き締める重要なパートです。

総括すれば、分厚く整った響きの壮大な声と音の伽藍の中に入り込める稀有な体験、という事になります。
どんなオーディオセットでも、もちろんヘッドホンなどでは絶対に体験できない、圧倒的な音のパワーに感動の震えさえ起きる実体験。しょっちゅうコンサートに出かける私にも飛び抜けた出来事の一つになりました。

(収録するという場内アナウンスがありましたが、バリトンソロの盛大なフライングがあり今日の演奏は音源に使われないかも・・・)

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ステージ奥に児童合唱、二階に独唱・男声、左右に女声が陣取りました。

[2014/3/9]