森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

コクーン歌舞伎  盟三五大切

盟三五大切 (かみかけて さんご たいせつ)

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源五兵衛・数右衛門=中村橋之助
小万・お六=尾上菊之助
三五郎=中村勘太郎(六代目勘九郎

演出:串田和美

WOWOWの放送を録画視聴)







父と父が仕えていた侍のために手段を選ばず金を調達する三五郎・小万夫婦。
浪人の源五兵衛から色仕掛けで大金を騙し取るが、その源五兵衛こそ父の主人数右衛門の世を忍ぶ仮の姿であった。
互いに顔を見知らぬことから起こった行き違いが恐ろしい不幸の連鎖を呼ぶ。


色とりどりのライティングと通常の歌舞伎とは違うタップリと間をとった演出、それにチェロのソロで演奏される悲歌やメランコリーなクラシックなどのBGMでコッテリとウェットに仕立てられた世話物歌舞伎です。
スピーディーでリズミカルの歌舞伎と串田さんの情感たっぷりの演出は完璧に溶け合っていて、舞台劇として違和感は全くありません。

しかしコミカルで残酷で悲しいこの演目は情の深さが拡張されて心に重くのしかかって来る思いがします。
鬼と化した源五兵衛が演じる修羅場は演技も演出もあまりに直截的で、その凄絶さは息を呑むほどです。
小悪党も大悪党も善人も次々と死んでいくあまりに救いの無い話は、コメディーでカラッと包むのが古人の知恵だったのでしょうが、串田さんはその遣る瀬無さをストレートに観客の心に叩きつけてきます。

こんなにズッシリと心にのしかかって来る舞台は実に久しぶりです。


橋之助は源五兵衛の優柔不断な浪人から修羅への変化を完璧に演じました。見事です。
菊之助女形はほんとうに美しく、中に菊之助が入っているなんて全く意識することがありませんでした。
勘九朗(上演時は勘太郎)はろくでなしの小悪党ではありながらお六を本当に愛し、父や父の主君への忠義も本物であるという複雑な役どころの三五郎を軽妙さを土台にメリハリを付けて演じて、いい役者になったし今後も楽しみだと素直に感じることができます。
勘三郎さんも立派な形見を残せましたね。


最後のシーンはまるでゴッドファーザー3のラストシーンのようなフラッシュバックで泣かせる演出なのですが、あまりに悲惨壮絶なストーリーと演出に泣けるというよりドンヨリとした気分になってしまいました。


最後の討ち入りの呼びかけの声は勘三郎さんですよね?
勘九朗そっくりですが気品がありました。


[2012-12-23]