森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

プティボンのスザンナ

フィガロの結婚』 エクサン・プロヴァンス音楽祭2012

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演 出:リシャール・ブリュネル
管弦楽:ル・セルクル・ドゥ・ラルモニ
指 揮:ジェレミー・ロレール

フィガロ=カイル・ケテルセン出 演:
 伯爵夫人=マリン・ビストレム
 伯爵=パウロ・ショット
 ケルビーノ=ケイト・リンジー
 マルチェリーナ=アンナ・マリア・パンザレラ
 バルトロ=マリオ・ルーペリ
 バルバリーナ=マリ・エリクスメン
 ドン・バジリオ=ジョン・グレアム・ホール

2012年7月12日 エクサン・プロヴァンス 大司教館 中庭
(NHKの放送を録画視聴)

プティボンはリサイタルでのふざけた姿しか見たことなくてオペラでの彼女を見るのは初めてです。

終わってみればスザンナは彼女にピッタリで、特に時代を現代に移した今回の演出ではハマリ役と言えます。
軽妙で利発で可愛らしくて強い、容姿も歌もそんなスザンナそのものでした。

カイル・ケテルセンはあまりフィガロの策士な面は出ずボケ役的な印象でしたが『セビリアの理髪師』と違ってフィガロの結婚ではそんなフィガロもありでしょう。
キーンリーサイドのドン・ジョヴァンニでレポレッロを演っていましたが、どちらもいい味を出していました。
実力的に特に不足を感じることはありません。

ケイト・リンジーのケルビーノは全然色気がなくて少年にしか見えません。しかも上背がありヤンチャで生意気な美少年。
無作法で思い上がりで場違いなケルビーノにイライラしてしまうのは初めてでした。
しかし声はとても華やかで綺麗なトーンです。
理想的なケルビーノかもしれません。

その他はロジーナ以外は堅実で不足の無いものでした。

舞台を現代にしたことで貴族と召使の話が身近に感じられ、猥雑で生々しくさえあるのは私は良い効果だったと思います。

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しかし大団円の中、伯爵が懲りずに町人娘に手を出しロジーナが怒るのではなく呆然とするシーンで終わるというのは気分をスポイルしました。

オーケストラも疑問符付きのハッキリしない終わり方だったと感じます。
なんとなく拍手しにくい感じでしたね。





(暗転しかけた舞台にライトがフラッシュし伯爵にうっちゃられた夫人の表情が浮かびます)


また「策士策に溺れる」が輻輳するようなややこしいストーリーを演出が上手く捌けていない印象がありました。


オーケストラですが、序曲の「ミーレド・ソーファミ」の頭に強いアクセントを置くのを始めとしてフレーズの特徴を強調する音楽的演出は弦楽器のノンビブラート奏法と相俟って大変活き活きと楽しく感じられました。
あまり上手ではないのだけど、タップリの表現意欲を示してくれて気持ちのいい演奏でした。
ただし何度も耳にすると耳障りになるかもしれない演奏スタイルだとも感じました。

ジェレミー・ロレールという指揮者はとても若くみえるのだけど面白い指揮者で今後に期待です。気品と官能性と物事のダークな面が表現できるようになるといいのですが。

因みにフォルテピアノの音色が綺麗だけど軽薄に上滑りするようで、私は嫌いでした。


一貫して弛緩するところがなく『フィガロの結婚』を背筋を伸ばさず本来の気楽なオペラ・ブッファとして終始楽しめる優良な舞台でした。


[2012-10-30]